保健医療科学
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特集
症例報告と臨床研究
症例報告の法令・指針上の扱いの国際比較
冨尾 淳 佐藤 元
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 69 巻 3 号 p. 243-252

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抄録

目的:症例報告の法令・指針上の位置づけについて,人を対象とする研究との区別を中心にわが国と諸外国の現状を概説し,症例報告に関する今後の課題について検討した.

方法:日本および主要先進国(米国,イギリス,フランス,ドイツ)の法令・指針等,学術機関・学会等の指針,主要医学雑誌の投稿規定および学術文献を参照し,症例報告の学術的な定義を確認するとともに,各国における症例報告の位置づけ(研究に該当するか否か)および,症例報告の個人情報保護に関連する規制・要件等について整理した.

結果:症例報告は,日本,米国,イギリスでは,法令・指針により「診療」または「研究以外の活動」とみなされ,研究には該当しないとされていた.フランス,ドイツでは,法令・指針において症例報告についての明確な言及はなかった.いずれの国でも,症例報告の実施に際して,倫理委員会の承認を含む研究に対する規制は原則として適用されないが,症例報告の目的(研究目的か否か),施設の方針等により研究とみなされる場合もあり,規制の適用状況は一様ではないことが明らかになった.対象者の個人情報保護については,いずれの国も法令およびこれに基づく指針により匿名化と同意のプロセスが規定されており,学術誌や学会等でも同様の規定が適用されていた.

結論:症例報告は,原則として研究に対する規制の適用を受けずに実施されていたが,実際は研究目的で実施される状況もありうる.医療および医学研究を取り巻く環境の変化を踏まえた上で,症例報告を定義・分類し,症例報告の目的と内容を考慮した規制枠組を構築することが望まれる.

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© 2020 国立保健医療科学院
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