2021 年 70 巻 2 号 p. 107-115
乳及び乳製品は栄養素に富み,人間の貴重なたんぱく源として古くから利用されてきたが,食中毒菌を含む多くの微生物にとっても増殖に適しており,様々な食中毒事例の原因食品ともなってきた.乳及び乳製品による食中毒は,サルモネラ属菌,リステリア・モノサイトゲネス,黄色ブドウ球菌,カンピロバクター,セレウス菌,クロノバクター属菌,病原大腸菌等により引き起こされているが,製品中でのこれらの病原菌の保有率は一般に低いため,衛生管理においては細菌数,大腸菌群,腸内細菌科菌群等の衛生指標菌が用いられている.国内における乳及び乳製品の微生物規格基準は主に細菌数と大腸菌群を管理項目としており,例えば牛乳の細菌数は50000 colony forming unit(CFU)/mL以下で大腸菌群陰性,と定められている.この規格は消費期限の終わりまで適用され,逸脱時には行政措置の対象となる.一方,Codex委員会による国際規格とEU規格では,低温殺菌牛乳の微生物規格基準を 2 通り定めており,出荷前の時点で腸内細菌科菌群10 CFU/mL未満であること,消費期限の最終時点でサルモネラ属菌とリステリア・モノサイトゲネスが陰性であることが必要とされる.前者の逸脱時には製造環境の衛生状態の改善,後者の逸脱時には製品の回収が求められる.
微生物は食品中に均一に存在してはおらず,試験に用いるためにランダムに採取した試料が当該ロットの汚染状況を正確に反映していない場合が起こりうることから,国際的な微生物学の専門家集団であるICMSFによってサンプリングプランが提唱されている.これは,偏りのない試験結果を得るために,サンプリングプランによって過去の調査で知られている食品種ごとの汚染レベルや,健康被害の大きさに応じて,1 ロットから用いるべき検体数や管理すべき水準を定めたものである.国内でも,ナチュラルチーズ中のリステリア・モノサイトゲネスの規格基準として, 1 ロットあたり 5 検体を試験し,その全てが100 CFU/g以下でなくてはならない,と定められている.
規格基準適合性を判断する試験には公定法を用いる必要があるが,製造工程での衛生管理に用いる試験法は任意である.一般に微生物試験は培養を伴うため結果を得るために数日を要するが,試験期間の短縮,培地調製等の簡略化,判定の自動化等が可能となる様々な迅速簡易法が発売されている.現在国内にはそれらの妥当性評価を行う機関は存在しないが,国際標準法であるISO法や米国の公定法には第三者認証機関が存在し,妥当性評価がなされた代替法が示されている.ただし,製品や製造工程の特性等によって認証取得済みの製品であっても得られる結果が従来法と同等でないことがあり,個々の現場で導入検証を行う必要があると思われる.