保健医療科学
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連載 東日本大震災から10年 ―国立保健医療科学院からの発信―
東日本大震災後に発生した福島第一原発事故による自主避難に関する課題
吉岡 京子
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2021 年 70 巻 3 号 p. 288-295

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抄録

東日本大震災後に発生した福島第一原子力発電所事故(以下,原発事故とする.)により,多くの住民が放射線被ばくを避けるために避難した.避難は,放射線被ばくの恐れが極めて高い地域の住民が政府や地方自治体の指示により強制的に避難する「強制避難」と,それ以外の区域の住民が自主的に避難する「自主避難」に分けられる.同じ原発事故が原因で避難しているにも関わらず,自主避難者に対する支援は手薄で,避難先でも様々な苦難を体験しているが,そのことはほとんど知られていない.本稿では,原発事故による住民の避難に関する混乱と,自主避難者の健康や生活に関する問題(以下,健康・生活問題)について先行研究の知見を整理すると共に,今後の課題について示唆を得ることを目的とした.

原発事故発生当時の政府は,段階的に避難指示範囲を拡大したが,住民には避難指示が十分に伝わらず,混乱が生じていた.また年間の放射線積算線量が20mSv超と推定されるホットスポットの判明に伴い,政府は特定避難勧奨地点を指定したが,追加認定を一切認めなかった.結果的に住民の行政不信が一層助長され,さらなる自主避難者の増加を招いた.

自主避難者に関する研究の多くは,子連れで避難した母親を対象とした「母子避難」が中心であった.自主避難に対して親族からの理解が得られない,自主避難後の母親の心身の不調,父親と会えないことを子どもが寂しがるといった問題や夫婦間の不和が生じていた.また二重生活による経済的な負担も大きく,子どもの進学や住宅支援の打ち切りを契機に福島県へ帰還する者もいた.

一方,妻子を自主避難させ,自身は福島県に残って就労を続けた男性を対象とした研究も行われていた.自主避難先と自分の住まいである福島との往来による疲労の蓄積,妻子の自主避難を誰にも話せないことによる孤立,心身の健康状態の悪化が報告されていた.また男性が自主避難に対する周囲からの差別に不安や恐怖を感じていた可能性も示唆されていた.さらに自主避難先での孤立予防の対策として,母親を対象とした茶話会や交流会が開催されていたが,男性への支援策に関する記述は見当たらなかった.

今後も自然災害等により,新たな原発事故と自主避難者が発生する恐れがある.原発が設置されている地域やその周辺自治体は自主避難者に対する支援策について平時に協議・検討し,備えておく必要があると考えられる.

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