保健医療科学
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70 巻, 3 号
国連持続可能な開発目標3(SDG3)―保健関連指標における日本の達成状況と今後の課題について―
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特集
  • 保健関連指標における日本の達成状況と今後の課題について
    児玉 知子
    原稿種別: 巻頭言
    2021 年 70 巻 3 号 p. 215
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス
  • 大原 佳央里, 梅木 和宣
    原稿種別: 解説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 216-223
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は,2030年までによりよい世界を目指す国際目標である.地球上の「誰一人取り残さない」,持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため,17の目標とその下に169のターゲットを設定し,さらにSDGsの達成度をモニタリングするため232の指標を選定し,先進国と途上国や政府と民間等の垣根を越えた普遍的な取組を開始した.SDG3の下には13のターゲットと28の指標が設定されている.

    国際社会では,2019年 9 月に開催された国連SDGサミット2019で採択された「SDGサミット政治宣言」において,2030年までをSDGs達成に向けた取組を拡大・加速するための「行動の10年」と定めた.また,2021年の第74回世界保健総会では,非感染性疾患を抱える人々の新型コロナウイルス感染症重症化や死亡のリスク,必須保健サービスの中断等が指摘され,SDGs達成に向けた進捗に対する新型コロナウイルス感染症の影響を評価することが必要とされた.

    日本国内では,2015年のSDGs採択後,政府は「SDGs推進本部」を設置するとともに,3つの取組を整理した.まず,「SDGs実施指針」を作成し,2019年には「SDGs実施指針改定版」を公表して国内の基盤を整備し,国内実施と国際協力の両面においてSDGsを達成するための取組を実施することとなった.「SDGs実施指針改定版」には日本が取組を進めるにあたっての 8 つの優先課題が示されており,SDGs3は優先課題 2 「健康・長寿の達成」と優先課題 6 「生物多様性,森林,海洋等の環境の保全」に該当している.

    次に,具体的な施策等は,SDGs推進本部が2018年から「SDGsアクションプラン」にとりまとめている.「SDGsアクションプラン2021」には,新型コロナウイルス感染症の拡大でSDGs達成に向けた取組の遅れが深刻に懸念されていることを踏まえ,取組を加速化していくことが示された.また,次なる健康危機に備えて強靭かつ包摂的な保健システムを構築し,SDG3で示されたユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進することが重要とされた.

    最後に,SDGs推進の取組やSDGs達成に向けた進捗は,「自発的国家レビュー」で確認されている.2021年には,2017年以来 2 回目となる「自発的国家レビュー2021」が作成された.SDG3が該当する優先課題 2 「健康・長寿の達成」では,国内の課題と取組として健康寿命の延伸が,国際協力として途上国の保健・医療システムの強化が重要とされ,SDGs推進体制の強化や進捗評価体制の整備等による取組を進めることとした.

  • ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成状況と課題
    児玉 知子, 大澤 絵里, 松岡 佐織, 横山 徹爾, 浅見 真理
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 224-234
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    ミレニアム開発目標の後継として2015年 9 月に採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)では,開発国のみでなく先進国においても保健分野の目標が設定され,「誰一人取り残さない」ための国際的な取組が一層強化された.SDG3では「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を促進する」ことが目標とされている.この中で 8 番目に示されているユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)では,必要不可欠な保健サービスのカバー率として,リプロダクティブヘルス・母子保健,感染症,非感染性疾患,医療提供体制の 4 領域14指標が定義づけられている.これらの指標について,国内の既存統計や行政報告,および国連メタデータの活用について検討するとともに,OECD諸国におけるモニタリングデータ整備状況および開発国援助のための国際的なパートナーシップについて概説する.

  • 三浦 宏子
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 235-241
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    現行のSDGs目標では高齢者保健に関する目標は設定されていない.しかし,エイジングは先進国だけの問題ではなく,多くの中所得国でも顕在化しつつあるグローバルな課題である.本研究ではこれまでの高齢化対策の変遷をレビューするとともに,SDGsフレームワークを踏まえたエイジング評価指標を検討した.国連等から発刊されている二次資料・データに加えて,PubMedとScopusによる文献検索を行い,エイジング概念の学術的動向を把握するとともに,国レベルのエイジングの状況を評価できるエイジング評価指標を抽出した.さらに,抽出した指標をわが国に応用した場合に算出可能かどうかについても検証を行い,課題を整理した.

    WHOは既にSDGsの取り組みにおいてHealthy Ageingへの対応が必須であることを指摘している.国家レベルのHealthy Ageing指標として最も実績を有するのはActive Ageing Index(AAI)であった.このAAIをわが国で適応する場合,既存の統計資料を活用することにより,AAI算出に必要なデータはある程度収集可能である.しかし,年齢区分を55歳以上にしている項目や,Political Participation など近似するデータが存在しない指標もあり,AAI算出にあたっては追加調査や推計値の算出等が必要と考えられた.また,AAIはSDG3の指標のひとつであるUHCサービス・カバレッジ指標(SCI)のサービスアクセスに関する下位尺度スコアと有意な関連性を示した.

    国家レベルでのエイジング評価にはAAIが最も実績を有しており,今後,国際的な評価を行う際にも有効なツールになりえることが示唆された.わが国での応用可能性については,既存統計・資料のみでは情報が不足している項目がいくつかあり,追加調査や推計等による代替値の提示などを検討する必要がある.

  • 大澤 絵里, 児玉 知子
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 242-247
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    2015年に,国連総会にて批准された2030年を目標達成年にした「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, 以下SDGs)」では,目標 3 に「健康的な生活の確保し,福祉の推進」が掲げられた.ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の残された課題とされた母子保健は,妊産婦死亡,5歳未満児・新生児死亡,若年出産,加えて全ての人に財政リスクを負わず質の高い保健サービスへのアクセスを目指すユニバーサル・ヘルス・カバレッジの中の必須保健医療サービスとして家族計画,産前ケア,小児予防接種,子どもの肺炎治療へのアクセスの目標が設定された.これら多くの目標は,日本においては既に達成している目標である.特に,妊産婦死亡や子どもの死亡については,1900年以降,母子の健康状態を把握するための農村衛生調査の実施,地域住民による母子支援活動の母体である愛育会の発足,市町村母子健康センターによる施設内分娩,健康教育の促進により,母子の健康の改善が図られた.今回,SDGsの母子保健の指標については,産前ケアへのアクセス,小児の肺炎治療の指標は日本でもプライマリデータを保有,公表がされておらず,SDGsの母子保健における指標に対するデータ収集の限界もあることも明らかとなった.加えて,これらの目標や指標は,日本の母子保健の現状やその改善にとって適切な指標とは言い難く,日本において,SDGsの「誰一人とり残さない」という理念への達成を目指すことはできない.SDGsの母子保健の目標は,日本にとっては過去のこととはとらえず,現在の母子保健の課題や取り組みを,「誰一人とり残さない」というSDGsの理念と結び付け,国際的に発信していくことが求められる.

  • HIV・エイズにおけるモニタリング指標と達成状況
    松岡 佐織
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 248-251
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    感染症分野における持続可能な開発目標3(SDG3)を達成するため,国内における感染症への取り組みを把握し,継続的に発生動向を把握するとともにその対策について評価することは極めて重要である.2014年世界的に主要な予防戦略としてWHO/UNAIDSが早期診断・早期診療を基本とした90-90-90(95-95-95)戦略を発表した.この戦略に基づき各国において数値目標の新規感染者数,診断率,治療率を把握するためのより詳細は動向分析が積極的に進められている.本稿では,これらの研究成果を基に日本の達成状況を議論するとともに,SDG3に含まれるHIV関連指標への応用について考察する.

  • 嶋根 卓也, 猪浦 智史, 松本 俊彦
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 252-261
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本研究では,日本国内で公表されている既存データベースをもとに薬物乱用領域(SGDs3.5)の指標案を検討することを目的とした.

    方法:指標案を作成するために,研究目的に合致した情報が含まれている,調査が継続的に行われている,インターネットで情報が公開されていることを選択基準とし,次のデータベースを選択した.薬物使用に関する全国住民調査(2007~2019年),薬物乱用防止教室開催状況(2015~2018年),全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2012~2020年)精神保健福祉資料(2014~2017年).

    結果:2019年に実施された全国調査によれば,一般住民における違法薬物の生涯経験率は,大麻(1.81%),覚醒剤(0.39%),有機溶剤(1.09%),MDMA(0.30%),コカイン(0.34%),ヘロイン(0.13%),危険ドラッグ(0.31%),LSD(0.30%)であった.大麻の生涯経験率は,2007年から2019年にかけて有意に増加した一方で,有機溶剤の生涯経験率は,2007年から2019年にかけて有意に減少した.薬物乱用防止教室の開催率は,小学校(78.6%),中学校(90.6%),高等学校(85.8%)であった.精神科医療施設を受診する薬物使用障害患者の主たる薬物の比率は,覚醒剤(36.0%),睡眠薬・抗不安薬(29.5%),一般用医薬品(15.7%),多剤(7.3%),大麻(5.3%),有機溶剤(2.7%),非オピオイド鎮痛薬(0.7%),オピオイド鎮痛薬(0.5%),危険ドラッグ(0.3%)であった.覚醒剤症例の比率が最も高い傾向が続く一方で,睡眠薬・抗不安薬および一般用医薬品の症例が増加した.薬物使用障害の精神病床での入院患者数は,2014年(1,689名),2015年(1,437名),2016年(1,431名),2017年(2,416名)であった.薬物依存症外来患者数(1回以上)は,2014年(6,636名),2015年(6,321名),2016年(6,458名),2017年(10,746名)であった.

    結論:薬物乱用・依存領域におけるデータベースの蓄積性や継続性を踏まえ,1地域住民における違法薬物の生涯経験率,2学校における薬物乱用防止教室の実施率,3精神科医療施設における物質使用障害者の主たる薬物の構成比率,4薬物依存症の患者数および診療機関数を日本のSGDs3.5指標とすることが妥当と結論付けた.

  • 生活環境・水分野におけるSDG健康関連指標の課題
    戸次 加奈江, 浅見 真理, 欅田 尚樹, 児玉 知子
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 262-272
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    「持続可能な開発目標 3 」(SDG3)では,保健医療分野に関する評価・モニタリング指標の提示が求められている.本研究では,生活環境関連分野における指標の定義を確認するとともに,一般環境から労働環境までを対象に,WHO報告書から環境リスクが指摘される化合物及び物理的因子に関する国内の文献レビューを行った.

    その結果,室内寒暖差と死亡率との関連性や,準揮発性有機化合物(SVOC)の室内濃度や湿度環境とアレルギー疾患との関連性,大気中の微小粒子状物質と呼吸器・循環器系疾患との関連性が示唆された.また,指標3.9.2「安全ではない水,安全ではない公衆衛生及び衛生知識による死亡」はTier Iであるが,過去30年間の国内水質事故事例の情報収集等をもとにした水系感染症死亡事例による推計値は,国連指定のコーディングによる報告値よりも極めて低く,WHOのWASH定義疾病コードが開発国の状況を基にした定義となっていることが示唆された.

連載 東日本大震災から10年 ―国立保健医療科学院からの発信―
  • 10年間の対応のまとめ
    山口 一郎, 寺田 宙, 志村 勉, 温泉川 肇彦, 牛山 明
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 273-287
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    東京電力福島第一原子力発電所事故後の食品の放射線安全確保のための対策について,事故後10年間の対応の整理を試みた.東日本大震災時に発生した原子力発電所事故後に食品の放射線安全確保のために用いられた指標は,あらかじめ備えていたものであったが,その後の現存被ばく状況での対応では,国際的な考え方に基づき管理のための指標値が導入され,国際的に調和が取れた規制での対応となった.対策の内,食品の放射性物質濃度のモニタリングは,地域の状況に応じた対応がPDCAサイクルを機能させてなされていた.事故によるリスク増加であることを踏まえた関係者間での合意形成が今後の対応でも求められる.

  • 吉岡 京子
    原稿種別: 総説
    2021 年 70 巻 3 号 p. 288-295
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    東日本大震災後に発生した福島第一原子力発電所事故(以下,原発事故とする.)により,多くの住民が放射線被ばくを避けるために避難した.避難は,放射線被ばくの恐れが極めて高い地域の住民が政府や地方自治体の指示により強制的に避難する「強制避難」と,それ以外の区域の住民が自主的に避難する「自主避難」に分けられる.同じ原発事故が原因で避難しているにも関わらず,自主避難者に対する支援は手薄で,避難先でも様々な苦難を体験しているが,そのことはほとんど知られていない.本稿では,原発事故による住民の避難に関する混乱と,自主避難者の健康や生活に関する問題(以下,健康・生活問題)について先行研究の知見を整理すると共に,今後の課題について示唆を得ることを目的とした.

    原発事故発生当時の政府は,段階的に避難指示範囲を拡大したが,住民には避難指示が十分に伝わらず,混乱が生じていた.また年間の放射線積算線量が20mSv超と推定されるホットスポットの判明に伴い,政府は特定避難勧奨地点を指定したが,追加認定を一切認めなかった.結果的に住民の行政不信が一層助長され,さらなる自主避難者の増加を招いた.

    自主避難者に関する研究の多くは,子連れで避難した母親を対象とした「母子避難」が中心であった.自主避難に対して親族からの理解が得られない,自主避難後の母親の心身の不調,父親と会えないことを子どもが寂しがるといった問題や夫婦間の不和が生じていた.また二重生活による経済的な負担も大きく,子どもの進学や住宅支援の打ち切りを契機に福島県へ帰還する者もいた.

    一方,妻子を自主避難させ,自身は福島県に残って就労を続けた男性を対象とした研究も行われていた.自主避難先と自分の住まいである福島との往来による疲労の蓄積,妻子の自主避難を誰にも話せないことによる孤立,心身の健康状態の悪化が報告されていた.また男性が自主避難に対する周囲からの差別に不安や恐怖を感じていた可能性も示唆されていた.さらに自主避難先での孤立予防の対策として,母親を対象とした茶話会や交流会が開催されていたが,男性への支援策に関する記述は見当たらなかった.

    今後も自然災害等により,新たな原発事故と自主避難者が発生する恐れがある.原発が設置されている地域やその周辺自治体は自主避難者に対する支援策について平時に協議・検討し,備えておく必要があると考えられる.

論文
  • 山田 友世, 竹内 浩視, 尾島 俊之
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 3 号 p. 296-305
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:静岡県における二次医療圏別の入院医療需給状況を分析し,各圏域の果たす医療需給上の役割と連携状況について検討し,医療提供体制の課題を明らかにする.

    方法:静岡県統計年鑑と患者調査の結果を用いて,静岡県と二次医療圏毎の人口・地理・患者背景,患者の受療動向について検討した.入院医療需給状況分析のための 4 指標(自域完結率,自域患者率,依存度エントロピー,診療圏エントロピー)を定め,算出した.4指標をもとに行った主成分分析結果に基づき,二次医療圏を医療需給上の特性で分類した.ICD-10に準拠した傷病分類別入院患者数をもとに,各圏域における流出入の傾向について検討した.

    結果:『駿東田方』,『静岡』と『西部』は,県内における中心的医療圏としての役割を担っていた.『駿東田方』では「新生物」における広い診療圏を抱え,県東部の救急診療における集約的役割を担っていた.『西部』では「脳血管疾患」における圏域内医療格差が課題として示された.県内唯一の「過疎地域医療圏」である『賀茂』では医療体制の強化が認められたが,三次救急を中心とする『駿東田方』への限定的依存が課題として示された.『熱海伊東』では患者流出入が共に多く,多圏域との「連携型」医療特性を示した.『志太榛原』は多圏域への患者流出を認め,分散型の依存特性を示した.

    結論:静岡県における各二次医療圏の医療需給上の役割と課題を明らかにした.更なる分析の継続が,地域における質の高い医療体制の確保につながると考えられた.

  • 西大 明美, 木村 映善, 瀬戸 僚馬, 佐藤 洋子, 星 佳芳, 緒方 裕光, 水島 洋
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 3 号 p. 306-314
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:ICD-10からICD-11への改訂において分類の構成が大きく変化し,エクステンションコード(重症度や解剖学的部位などの補助情報)が新設されるなど,コーディング内容に変化が生じており,コーディングの質に影響を与える可能性がある.本研究では,我が国で2017年に実施されたICD-11フィールドトライアルのコーディングのデータを用いて,WHOからゴールドスタンダード(GS)コードが提供された診断用語のコーディング結果の一致性について分析することを目的とした.具体的には,評価者のICD-10のコーディング結果をWHOのICD-10のGSと比較して正解率を算出し,同様に評価者のICD-11のコーディング結果をWHOのICD-11のGSと比較して正解率を算出した.その後に,「ICD-10の正解/不正解」と「ICD-11の正解/不正解」の一致性を分析するために今回の研究を行った.

    方法:我が国のICD-11フィールドトライアルは,2017年 8 月 1 日から 9 月10日を評価期間として,診療情報管理士298名が参加して実施された.その結果を基に診断用語コーディングのICD-10とICD-11のそれぞれの正解率およびICD-11の主病名の正解率を算出した.それらの結果と,コードの特徴との関連を検討した.コードの特徴としてGSコード数,主病名のコードの桁数,その他のコード(Yコード)や詳細不明コード(Zコード)の有無,エクステンションコードの有無をあげた.更に有効回答評価者の評価結果のICD-10/ICD-11のコーディングの一致性の評価としてGwet’s AC1 を用いて検討した.

    結果:ICD-11において正解率が高い診断用語は,GSコード数が少なく,その他のコード(Yコード)や詳細不明コード(Zコード),エクステンションコードを必要としないものが多かった.ICD-11において正解率が5%未満と低い診断用語は,GSコード数が複数であり,主病名のコードの桁数が4~6桁と多く,その他のコード(Yコード)や 詳細不明コード(Zコード),エクステンションコードを必要とするものが多かった.サイトメガロウイルス性大腸炎の正解率はICD-10における36.55%からICD-11における89.85%と,19の診断用語の中で最も向上していた.これはICD-11 においては,疾病ごとにコードが割り当てられたため,詳細な分類が可能となったことが影響している.Gwet’s AC1値が,0未満と低かった診断用語も,エクステンションコードを必要とするものが多かった.

    結論:詳細な分類が可能となった診断用語は,正解率が高く,ICD-11への改訂が,コーディング結果への向上に繋がっていた.一方で,GSコード数が複数であり,エクステンションコードを必要とする診断用語は,正解率が低かった.今後,複数のコードやエクステンションコードの使い方について,十分な教育コンテンツを準備することが必要である.今回のフィールドトライアルは一部の資料を除き英語環境下での実施であったため,国内適用の前には,十分な研修と完全な日本語環境によるフィールドトライアルの実施が求められる.

  • 田中 英夫, 森定 一稔, 渡邉 美貴
    原稿種別: 資料
    2021 年 70 巻 3 号 p. 315-322
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の第 1 波は,国民に対する強制的な行動制限を実施することなく2020年 5 月後半には一旦下火となった.本研究では大阪府人口(880万人)における同期の有症状となったCOVID-19罹患数の継時的トレンドの特徴を明らかにする.

    方法:2020年 2 月27日から 5 月23日の間に大阪府内で発生届のあった,診断時有症状のCOVID-19罹患者の,発症日および感染ルートが不明か否かの情報を,大阪府健康医療部が公開する府ホームページから入手した.これを用いて発症日で見た罹患数の 7 日間移動平均を算出した.また,罹患者を感染ルート不明者と判明者に 2 分し,ジョインポイント回帰分析法を用いてそれぞれの発症日で見た罹患数のトレンドを分析し,当時の社会情勢や行政の取り組みの影響を検討した.

    結果:第 1 波における罹患数のピークは 4 月 3 日(72人)であった.感染ルート不明罹患数の 3 月12日から 4 月 2 日までのannual percent change(DPC)は+14.8%と顕著な増加を示し,それ以後急速に減少し始め(DPC:-7.5%),特に,緊急事態宣言が出された 4 月 7 日から 5 日後の 4 月12日から 5 日間はDPCが-15.8%と,減少率が加速していた.一方,感染ルート判明者の罹患数のトレンドは,概ね 6 日から 7 日遅れて感染ルート不明罹患数のトレンドに同調していた.

    結論:大阪府のCOVID-19流行第1波における感染ルート不明者の罹患数のピークは 4 月 2 日であった.感染ルート判明者の罹患数の継時的変化のパターンは,感染ルート不明者のそれに 6 - 7 日遅れで同調していた.

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