保健医療科学
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論文
医療経済評価における小児のQOL値測定法とその課題
本多 貴実子 白岩 健後藤 励福田 敬
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 71 巻 3 号 p. 264-275

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抄録

適正な医療資源の配分のためのエビデンスを提供することを目的として行われる医療経済評価では,異なった領域の介入の比較を容易にするため,アウトカム指標を質調整生存年(Quality-adjusted life year: QALY)とすることが原則とされている.QALYは生存期間にQOL(Quality of life)を 0 から 1 の値に換算したQOL値を重み付けして得られる.QALYにはその国の人々の選好による重みづけが反映されることが望ましいという観点から,QOL値は国内の調査結果を優先的に使用することが推奨されているが,以前から日本人のデータが乏しいことが指摘されていた.近年成人ではその蓄積が進みつつあるが,小児においてはその測定に多くの課題があり,日本ではほぼ行われていないのが現状である.

医療経済評価でQOL値測定に用いられる尺度は選好に基づく尺度(Preference-based measure: PBM)である.PBMによってQOL値を得る過程は,評価したい健康状態の「測定」と「価値づけ」に分けられる.これを一度に行うものを直接法,別々に行うものを間接法と呼ぶ.直接法には評点尺度法,時間得失法,基準的賭け法があるが,小児では実施可能性,信頼性,妥当性はまだ十分に検討されていない.成人も含め一般的に現在主流となっている間接法では,multi attribute utility instruments (MAUIs)と呼ばれる尺度を用い,実際にその健康状態にある人(患者)に自らの健康について質問票に記入してもらった後,換算表を用いてQOL値を算出する.一般的に成人を対象に開発されたMAUIsは,小児で使用するにあたって質問の記述の仕方や内容が適していない,さらに換算表が成人の健康についての価値付けになっているなどの問題があり,小児には小児用のMAUIsの使用が望ましいとされる.

近年小児用のMAUIsの開発が進んできたが,各国での翻訳や換算表の有無により,どの国でもこれらが使用できるわけではなく,3歳以下の年少児では使用できるものは現在ない.また,どの領域をどのように評価するべきか,誰が記入するべきかなどの「測定」に関する課題,換算表の作成にあたって誰の選好をどの視点を使用して明らかにし,反映するべきなのかという「価値付け」の課題があり,現在あるMAUIsが十分に小児の健康関連QOLをとらえられていない可能性もある.

日本ではこれまで小児の使用を想定したMAUIsがなかったが,最近EuroQol 5-dimension Youth version (EQ-5D-Y)日本語版とその換算表が発表され,今後日本人小児のデータの蓄積が期待される.小児のQOL値の測定と解釈にあたっては,その課題や限界を十分に理解しておく必要がある.

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© 2022 国立保健医療科学院
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