2023 年 72 巻 2 号 p. 128-133
新型コロナウイルス感染症の流行により,国内の保健所では感染症対策人員を中心とする多くの職員が対応に追われる事態となり,平時に実施されていた保健所でのエイズ対策にも大きな影響が及んだ.近年,抗ウイルス薬の開発と服薬負担の軽減により,HIV陽性者も通常の生活を送りながら長期療養が可能となったが,国内ではエイズを発症してから届出される報告数が, 依然として新規報告数の約 3 割で推移している.予防啓発とともに,性感染症を含めた利便性の高い検査体制の普及・強化が必要である.同時に多様性社会における性的マイノリティの実状への理解を深め,当事者の視点でコミュニティと協働した対策や支援を講じる必要がある.対策の要となる公衆衛生・地域保健従事者の育成は今後も重要であり,新興感染症や災害等の有事にもエイズ対策が滞ることのないよう,HIV新規感染ゼロの実現に向けて,持続可能な対策の整備が期待される.