抄録
【はじめに】糖尿病の運動療法に関し、有酸素運動やレジスタンス運動が食事療法と併用することによって効果を得られることが明らかにされている.しかしながら、その継続には困難なことが多く、より現実的かつ効果のある運動療法が求められる.
【目的】今回我々は、患者に積極的運動を強いる必要のない運動療法として、日常生活の中での下肢への重錘負荷が糖代謝に及ぼす効果の検証を目的とした.
【方法】平成19年7月から9月にかけて外来通院治療を行っている2型糖尿病患者16名を、介入前の体重、BMI、採血値について有意差のない2群に分け、片足1kg両足計2kgの重錘負荷群(以下負荷群)と統制群振り分けた.なお、両群ともに調査の説明を介入前に行い同意を得た.着用は夕食から就寝までの約3時間、活動量の指標には万歩計を用い、普段とかわらない生活を過ごすことを求めた.介入期間は2ヵ月とした.介入前・後に糖代謝の指標としてHbA1c、血糖値、ならびに下肢膝伸展筋力を測定した.筋力はハンドヘルドダイナモメーターを用いた.なお3回測定し、最大値を解析に使用した.統計は群間比較には対応のないt検定、群内比較には対応のあるt検定を用い統計処理を行った.なお、有意水準は5%未満とした.
【結果】負荷群8名は男性6名、女性2名、平均年齢59.4歳、統制群8名は男性6名、女性2名、平均年齢61.2歳であった.食後から就寝までの歩数は1000~3000歩であり介入前と後に有意な変化はみられなかった.約2ヶ月間の重錘負荷前後の検査結果として負荷群の血糖値は平均214mg/dlからへ185mg/dl、HbA1c平均7.8%から7.1%へと有意に減少した(HbA1、p=0.03、血糖値、p=0.04).一方、統制群では両検査値に有意差がみられなかった.また、負荷群と統制群における変化量の比較において、両群間に有意な差が認められた(HbA1c、 p<0.01、血糖値p<0.01).膝伸展筋力では負荷群において左右ともに有意な増加が認められた(右p<0.04、左p<0.03).また両群間における膝伸展筋力の変化量においても負荷群に有意な増加が認められた(p<0.05).
【考察】今回の結果、各測定値において重錘負荷群において効果が認められた.ゆえに、低負荷であっても継続によりカロリー消費をあげ、余剰血糖の減少を促し糖代謝改善につなげることができたことが予想できる.また筋力においても膝伸展筋力に増加が認められ、レジスタンス運動の要素も認められた.
糖尿病の運動療法には有酸素運動とレジスタンス運動と兼ね備えた運動療法が理想とされる.今回の結果から、重錘負荷の運動特性は両効果を併せ持つことが考えられた.また、継続可能な現実的運動であることや、経済的側面からも有用性が高いと考えられる.
以上のことより本方法は、糖尿病の治療や予防の一環として、糖代謝の改善に有用かつ比較的継続しやすい運動療法の一つとして期待できる.