2024 年 73 巻 4 号 p. 256-264
我が国の公共政策において , ナッジは , 「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れる ように手助けする新たな政策手法」として注目されている . ナッジは , 選択の自由を残し , 費用対効 果の高いことを特徴として , 我が国を含む世界の 400 を超える組織 ( いわゆるナッジ・ユニット ) が , 健康・医療 , 環境・エネルギー , 徴税 , 働き方改革等 , 様々な政策領域において活用している . ナッジを始めとする行動科学の知見の活用を推進する日本版ナッジ・ユニットにおいては , 産学政 官民連携によるオールジャパンの体制により , 行動に起因する社会課題の解決に向けて様々な分野の 議論を行っている . 健康・医療分野においては , 健康と環境保全における相乗効果を目指した取組や , がん検診の受診率向上の取組 , 健康寿命の延伸のための野菜摂取を促す取組 , トレーニングや体を動 かすための取組 , そして新型コロナウイルス感染症対策のための行動変容を促す取組等を題材にナッ ジの活用や留意点について議論してきた . ナッジの活用は , 他の政策手法と同様 , 人々の生活に介入し , 行動様式に影響を及ぼすことがある . とりわけナッジは , 科学的根拠に基づいて実践されることから , その蓋然性が高い . ナッジの活用が 進むにつれ , 近年においては , スラッジと呼ばれる適切ではない活動等 , 倫理面における課題が散見 されるようになってきている . ナッジの活用に携わる者は , 法令の定めるところに加え , 高い倫理性 が求められるものである . 官民問わず , ナッジの受け手にとっての受容性を考慮した上で , 倫理的に も配慮したナッジの活用を推進していくことが求められる .