2025 年 74 巻 2 号 p. 112-118
日本救急医学会熱中症委員会は2006年より重症熱中症にかかわる全国調査を実施し,熱中症の実態把握や対策に貢献してきた.また,2015年にはClinical Question(CQ)形式で「熱中症診療ガイドライン2015(G2015)」を発出しⅠ度からⅢ度の熱中症重症度判断と,症状を中心とした重症度判断による診療現場での具体的な指針が提示された.その後約10年が経過したこと,また,気候変動に伴う熱中症の増加や新たなエビデンスの蓄積を受け,ガイドラインの更新が必要と判断され,2024年版熱中症診療ガイドライン(G2024)の作成に至った.なお,G2024ではMinds診療ガイドライン作成マニュアル2020を参考にし,GRADEシステムを採用したガイドラインとした.また,十分な推奨が得られないCQについては,Future Research Question(FRQ)やBackground Question(BQ)として分類し,現時点における熱中症治療において,何が分かっていて何が分かっていないのかを明確にした. 主な変更点としては,アクティブ・クーリング(Active Cooling)の概念の明確化,重症度分類への「Ⅳ度」の導入,quick Ⅳ度(qⅣ度)の概念の確立,また診療アルゴリズムの明文化に重きを置いた.とくに体温冷却治療は「Active Cooling」と「Passive Cooling」に分類し,「Active Cooling」には冷水浸漬,蒸散冷却,体外式膜型人工肺(ECMO)などが含まれ,「Passive Cooling」は冷却輸液や涼しい環境での休息のような軽症者対応の治療と定義した.また,熱中症重症度の新分類においては,従来のⅢ度を細分化し,「Ⅳ度」を最重症例として定義した.Ⅳ度は深部体温40.0℃以上,意識障害(グラスゴー・コーマ・スケール(GCS) 8以下)を定義とし,早期にActive Coolingを含めた集学的治療を推奨することとした.実際のHeatstroke STUDY (HsS)データからも,Ⅳ度の院内死亡率は23.5%と高く,Ⅳ度のⅢ度に対する死亡オッズ比は4.5(95%信頼区間 : 3.24-6.30)であることがガイドラインの中に示されている.また深部体温測定が困難な現場向けに,表面体温40.0℃以上,もしくは明らかな熱感があり,かつ重度意識障害(GCS 8以下,あるいはジャパン・コーマ・スケール100以上)があればqⅣ度と判定し,迅速に高次救急医療機関への搬送を促すことに重きを置いた.G2024では上記重症度の判断をもとに診療手順を明確化し,qⅣ度やⅣ度の場合には即時のActive Coolingを含む治療を推奨した.なお,G2024ではCQ形式で10項目,FRQ7項目,BQ7項目を設定しており,明確な推奨に至ったトピックは少なかった.依然,本領域におけるランダム化比較試験などの質の高い研究は少なく,更なる研究の新進が望まれる.