保健医療科学
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論文
中高年期における主観的健康観の規定要因
日本の社会的背景を踏まえた性別層別分析
岩瀬 裕三子 細川 陸也
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電子付録

2025 年 74 巻 5 号 p. 479-487

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抄録

目的 主観的健康観(Self-rated health: SRH)は,罹患率や死亡率を予測する指標であり,健康状態と社会的背景により形成される.日本では「介護は家族が担い,男性が家計を支える」といった性別規範に根差した社会的背景が存在する.これまでもSRHにおける性差を検討した研究は存在するが,日本の社会的背景を考慮し,理論的枠組みに基づいた研究は限られている. Jylhäの理論によると,SRHは疾病や身体の不調などの健康構成要素と性別や文化などの評価枠組みとの相互作用により形成される.本研究では,Jylhäの理論的枠組みに基づき,50歳以上の日本人を対象として,SRHと身体的健康,社会経済的要因,生活習慣との関連を性別に検討した. 方法 本研究では,50歳以上の日本人を対象とした2012年の「中高年者パネル調査」データ(n = 2,826)を用いて横断的分析を行った.SRHを3水準の順序変数とし,性別に層別した順序ロジスティック回帰分析を実施した.独立変数には身体的健康(肥満関連疾患,日常生活における介助の必要性),社会経済的要因(就業状況,世帯収入, 学歴,管理職経験),婚姻状況,5つの健康行動を含め,Brant検定によりモデルの仮定を確認した. 結果 日常生活における介助の必要性は,男性でオッズ比(Odds Ratio: OR)= 0.17,95%信頼区間(Confidence Interval: CI):0.11–0.28,女性でOR = 0.12,CI: 0.07–0.19(男女ともp < 0.001)となり,SRHの低下と最も強い関連があった.就業状況は,男女ともSRHの高さと関連し,女性でやや強かった(男性: OR = 1.32, CI: 1.00–1.74,p = 0.048, 女性: OR = 1.45, CI: 1.11–1.90,p = 0.006).世帯収入は,男性の中所得層においてのみSRHの高さと有意な関連が認められた(OR = 1.38,CI: 1.02–1.85,p = 0.034).定期的な運動は,男性(OR = 1.48,CI: 1.15–1.90,p = 0.002),女性(OR = 1.38, CI: 1.08–1.77, p = 0.011)ともにSRHの高さと有意に関連していた.一方,規則的な生活習慣は女性でのみ有意な関連がみられた(OR = 1.30, CI: 1.02–1.67, p = 0.037).Brant検定により比例オッズの仮定は確認され,多重共線性もなかった. 結論 Jylhäの理論的枠組みに基づき,性別層別分析した結果,日常生活における介助の必要性がSRHとの関連で最も強かった.就業は男女ともにSRHと関連し,女性でより強い関連がみられた.世帯収入は,女性では有意な関連がみられず,男性でも高所得との関連は認められなかった一方,中所得層では有意な関連が確認された.これらの結果は,収入の評価に性差がある可能性や,一定以上の所得ではSRHとの関連が弱まる天井効果を示唆する.さらに,健康的な生活習慣との関連も性別により異なっており, SRHが健康状態と社会的背景の双方に基づくというJylhäの理論的枠組みに合致していた.SRHの向上には,性差を考慮した多面的支援が求められる.

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© 2025 国立保健医療科学院

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