2018 年 4 巻 1 号 p. 28-33
高齢化社会が進行する現代,認知症患者は激増している。医療上有効な治療法はいまだになく,また介護の面でも施設,人材の不足から老老介護の激増という問題が顕在化している。今回,漢方医学の心身一如,個別化医療という観点から,陽性BPSDの症状である不安,不眠が顕著で,かつ陰性BPSDの症状である食欲不振から低栄養状態をきたした認知症に,加味帰脾湯が著効した症例を経験した。加味帰脾湯の補気,補脾作用を根底に,清熱,精神安定化作用が適切に作用したものと考えられる。さらに見当識障害や遂行機能障害などの中核症状の進行も抑えられ,構成生薬の一つである遠志の抗認知症作用が寄与した可能性が示唆された。精神の安定と良好な身体活動性は長期に維持され,家族の負担は激減した。今後,このような認知症に対する加味帰脾湯の有用性が期待される。