生命医科学の発展とともに様々な形で人体の資源化は実現されてきたが,資源化された人体を直接的に産業と結びつけることは必ずしも社会として受容されてこなかった.これに対し,再生医療の特徴の一つとして,実現された際にもたらされる経済効果への期待が明示的である点が挙げられる.本稿は,そのような再生医療における人体の資源化と経済活動の結びつきを正当化するための社会装置という観点から,幹細胞バンクについて,特にヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)研究の一環として国内に設置された二つの幹細胞バンクに焦点を当てて検討を行う.hiPS細胞の医療応用への道筋としては,再生医療と病態モデルの作成による創薬の推進が提示されており,これらの幹細胞バンクはそれぞれの道筋に対応するものと理解できる.二つの幹細胞バンクとそこに見える人体の資源化の在り方の考察を手がかりに,人体の資源化に関わる社会装置に目を向けることの重要性について考える.