科学技術社会論研究
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英国における「医療・医学の女性化」をめぐる議論と対策
渡部 麻衣子
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2021 年 19 巻 p. 96-105

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抄録

 本稿では,英国における「医療・医学の女性化 feminization of medicine」をめぐる議論と対策の現状をまとめる.英国では2000 年初頭から,医師に占める女性の割合が男性を上回りつつある状況が,医学界の危機として「 医療・医学の女性化」という言葉を用いて論じられるようになった.2004 年,王立内科医協会の女性代表は,女性医師の増加は,特に激務を必要とする領域で医療の供給不足を招くと同時に,医師の社会的地位の低下を招く,すなわち「女性化は医学界を弱体化させる」と主張した.しかしこの主張は即座に批判され,医師,医学研究者の労働環境の改善を求める主張へとつながった.そして現在,同時期に発展した,学術領域におけるジェンダー均衡化を目指す施策の一環として,医学教育・研究における女性の地位向上を目指す取り組みが行われている.英国における「医療・医学の女性化」の事例は,「女性化」が,「弱体化」ではなく「変化」を促す起点となり,専門家集団が変容する過程を表す.

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