2023 年 30 巻 1 号 p. 3-10
本稿では,粗大運動の獲得や,動作の安定性に重要となる予測的姿勢調節(APA)の定型発達過程について述べる.APAは,動作に先行する姿勢の準備活動であり,乳幼児期の立位・歩行の獲得に重要な役割を担っている.また,運動不器用を主訴とする発達性協調運動障害(Developmental coordination disorders:DCD)の運動不器用やバランス障害とも関連することも判明している.しかしながら,DCDのAPAの障害特性は,年齢を細分化した分析の不足,および,APAの詳細な分析の不足から十分に解明されていない.APAの発達は,「出現率の安定化」から「機能の向上」という段階で15~16歳頃まで続くが,その過程は単調ではない.さらに,APA活動量(筋活動量や足圧中心点の変位量など)とAPA活動タイミングといった要素によっても発達過程が異なる.これらの相違は,各要素を制御する神経機構が異なること,また脳の関連領域の発達過程が異なることが要因だと示唆されている.DCD等のAPAの機能障害を有する児は,APAの発達特性を理解した上で疾患特性を評価しなければならない.発達学的観点から各種のAPAの評価指標の意義を見直すとともに,APAの神経機構について整理する.加えて,今後のDCDの評価方法について再考する.