日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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30 巻, 1 号
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巻頭言
解説
  • 萬井 太規
    2023 年 30 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー

    本稿では,粗大運動の獲得や,動作の安定性に重要となる予測的姿勢調節(APA)の定型発達過程について述べる.APAは,動作に先行する姿勢の準備活動であり,乳幼児期の立位・歩行の獲得に重要な役割を担っている.また,運動不器用を主訴とする発達性協調運動障害(Developmental coordination disorders:DCD)の運動不器用やバランス障害とも関連することも判明している.しかしながら,DCDのAPAの障害特性は,年齢を細分化した分析の不足,および,APAの詳細な分析の不足から十分に解明されていない.APAの発達は,「出現率の安定化」から「機能の向上」という段階で15~16歳頃まで続くが,その過程は単調ではない.さらに,APA活動量(筋活動量や足圧中心点の変位量など)とAPA活動タイミングといった要素によっても発達過程が異なる.これらの相違は,各要素を制御する神経機構が異なること,また脳の関連領域の発達過程が異なることが要因だと示唆されている.DCD等のAPAの機能障害を有する児は,APAの発達特性を理解した上で疾患特性を評価しなければならない.発達学的観点から各種のAPAの評価指標の意義を見直すとともに,APAの神経機構について整理する.加えて,今後のDCDの評価方法について再考する.

  • 進矢 正宏
    2023 年 30 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー

    平地での定常歩行運動を司る,脊髄や皮質下の神経機構による制御機構は古くから研究されてきた.それに対して,歩行中に障害物を跨ぐ課題に代表される,適応的歩行の制御機構に関する知見は限られており,巨大なブラックボックスともいえるものである.本稿では,将来における適応的歩行運動のメカニスティックな理解を目指すべく,これまでに行われてきた実験動物を用いた研究や,人を対象とした運動学的な知見について解説する.古くはGibson(1958)が指摘するように,人が障害物を跨ぐ際の行動では,視覚による環境の認知を経て,適切な運動が選択・出力される.すなわち,障害物とそれを跨ぐ足の運動にフォーカスした見方では,その全容を理解することは難しい.数々の先行研究により,足の軌跡や全身のバランス制御を含む障害物跨ぎ歩行動作は,年齢とともにダイナミックに変化することや,健常若年成人であっても,障害物の個数や形状,二重課題の負荷といった様々なコンテキストの影響により異なる動作が見られることが明らかとなっている.現段階において,これらの多様な行動を統一的に説明できる理論やモデルは存在しない.今後,高齢者の転倒予防や移動ロボットの制御への応用のためにも,様々な環境の中を適切に移動するための神経制御機構の研究が進むことが期待される.

  • 横山 光
    2023 年 30 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー

    本稿では,脳波や筋電図など非侵襲神経機能計測を使用したヒト二足歩行の神経制御に関する研究の近況について概説する.歩行の神経制御研究は1800年代から脈々と続いている長い歴史を持つ研究分野であり,従来はネコなどの四足動物を対象とした脳の部分破壊術を用いた研究が主流であった.しかしながら,近年の計測技術・解析技術のめざましい進歩により,ヒトにおいても対象とできる神経領域が拡大してきている.四足動物では四肢の左右・屈筋伸筋の交代性活動の生成を司る脊髄や脳幹による制御が中心であり定常歩行時では大脳皮質の関与は少ない.一方,二足直立歩行を行うヒトでは定常歩行時でさえ大脳皮質が顕著に活動する.このような違いを考慮すると,ヒト二足直立歩行の神経制御機序の理解のためには,実際にヒトが歩行中の神経活動を計測することが重要である.高密度脳波や高密度筋電図を使用した健常者・神経疾患患者の歩行実験により,ヒト二足歩行制御における大脳皮質から脳深部,脊髄の役割が徐々に明らかになりつつある.本稿ではそのようなヒト二足歩行制御の神経制御に関する近年の研究についてまとめる.

  • 瀧山 健
    2023 年 30 巻 1 号 p. 28-36
    発行日: 2023/03/05
    公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー

    我々の身体は多数の関節と筋肉を含む大自由度な非線形システムである.目標の動作を達成するために,中枢神経系は複雑な身体に適した運動指令を生成している.しかしながら,中枢神経系がどのように身体を制御しているかは未だ明らかでない.本解説では,身体運動制御に関わる仮説の一つであるモジュール仮説に焦点を当てる.モジュール仮説とは,中枢神経系は一つ一つの関節や筋肉を個別に制御しているのではなく,複数の関節・複数の筋肉のグループ(空間モジュール)に対して運動指令を生成する機構(時間モジュール)があるという仮説である.多数の先行研究において,筋活動データや関節角度データに対して次元圧縮手法(e.g., 主成分分析,非負値行列分解などの行列分解)が利用され,時空間モジュールが抽出されてきた.そして,空間モジュールや時間モジュールが課題毎にどのように調整されるかが明らかにされてきた.すなわち,1) 空間成分,2) 時間成分,3) 課題情報,という3つの要素が,2つの要素を議論するための行列分解手法を工夫することにより議論されてきた.本解説では,上記の3つの要素を解析するために,3つ以上の要素を同時に議論可能なテンソル分解が有効である可能性について議論する.

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