脳と臓器は迷走神経を介して強く互いに作用し,このシグナルは多くの生理学的調節を担当する.特に腸からは栄養シグナルを脳に伝える能力がある.このシグナルは従来,ホルモンによる数分から数時間の応答と考えられてきた.しかし,近年,一部の腸内分泌細胞がSodium glucose cotransporter1(SGLT1)を介してグルコースを感知し,求心性迷走神経とグルタミン酸作動性のシナプス結合によって秒単位で神経伝達を行っていることが明らかになっている.このシグナル伝達は,脳内のドーパミン神経を賦活することで報酬系を活性化することが明らかになっている.甘味受容体を欠損したマウスでも,糖に対する嗜好性が見られることから,上述のシグナルはマウスのショ糖嗜好性の形成に重要であることが示唆される.本稿では,このような腸から脳への迷走神経を介したシグナル伝達を「腸脳神経伝達」と名付け,その機能をホルモンによる調節との違いに触れながら解説する.