日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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30 巻, 3 号
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巻頭言
解説
  • 山田 芹華, 毛内 拡
    2023 年 30 巻 3 号 p. 112-120
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    脳と臓器は迷走神経を介して強く互いに作用し,このシグナルは多くの生理学的調節を担当する.特に腸からは栄養シグナルを脳に伝える能力がある.このシグナルは従来,ホルモンによる数分から数時間の応答と考えられてきた.しかし,近年,一部の腸内分泌細胞がSodium glucose cotransporter1(SGLT1)を介してグルコースを感知し,求心性迷走神経とグルタミン酸作動性のシナプス結合によって秒単位で神経伝達を行っていることが明らかになっている.このシグナル伝達は,脳内のドーパミン神経を賦活することで報酬系を活性化することが明らかになっている.甘味受容体を欠損したマウスでも,糖に対する嗜好性が見られることから,上述のシグナルはマウスのショ糖嗜好性の形成に重要であることが示唆される.本稿では,このような腸から脳への迷走神経を介したシグナル伝達を「腸脳神経伝達」と名付け,その機能をホルモンによる調節との違いに触れながら解説する.

  • 川名 洋平, 片桐 秀樹
    2023 年 30 巻 3 号 p. 121-130
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    臓器間ネットワークとは,生体内において中枢神経を含む各臓器が液性因子や神経因子のシグナルを介して相互に影響し合い,生体内に生じた変化に対して恒常性を維持する方向で協調するネットワークのことである.近年,代謝恒常性の維持に関わる種々の臓器間ネットワークが相次いで発見され,なかでもエネルギー代謝や糖代謝に関わるものは,世界的に患者が増え続けている肥満,糖尿病やメタボリックシンドロームの治療に役立つと期待されている.本稿では,当研究室で見出された,主に中枢神経,肝臓,脂肪組織,膵β細胞を含んだ,自律神経を介した臓器間神経ネットワークについて概説する.さらに,見出した臓器間神経ネットワークの糖尿病治療への応用を目的として最近行った,光遺伝学的迷走神経刺激による膵β細胞増殖メカニズムの研究についても解説する.

  • 佐々木 努
    2023 年 30 巻 3 号 p. 131-141
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    本稿では,食行動に伴う意思決定プロセスについて概説し,その過程において末梢―中枢連関が果たす役割について論じる.体内と体外で生成される情報が,末梢組織を経て中枢に作用して処理・統合され,その個体がおかれている状況を過去の経験を参照して評価し,「何を,いつ,どれだけ」食べるのか意思決定される.意欲行動としての食行動を生成する各種の要素,および,それらに対応する分子・神経基盤を列挙していくことにより,食行動における情報の処理・統合のプロセス仮説を構築し,どのプロセスを担う生物学的実体(分枝・神経基盤)の解明が必要なのかについて考察する.

  • 佐々木 拓哉
    2023 年 30 巻 3 号 p. 142-147
    発行日: 2023/09/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    脳は身体と密接に連絡している.内臓など身体内部から発生し,脳に伝わる信号は内受容感覚と呼ばれる.その多くが無意識的ではあるものの,脳機能に様々な影響を与える可能性が示されている.内受容感覚と言うと,何か新しい概念のような印象を受けるが,その実体は脳に入力される神経活動信号であることには変わりはない.本稿では,近年明らかになりはじめた内受容感覚に関する解剖学的,生理学的知見について記述しながら,従来知られている脳神経回路演算の特性との類似性や相互作用について考察する.先に断ると,本分野の研究知見は,従来の脳研究に比べると極めて未成熟である.しかし,今後は神経回路研究で扱われてきた数理解析やモデル化の導入が重要になると予想されるため,新しい試みに挑戦したいと考える研究者を増やしたいという思いから本稿を執筆することにした.

会報
編集後記
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