日本では認証を取得する生産者の伸びが鈍い.欧米に比べて有機農産物・食品市場は一部の購買層の需要にのみに支えられ,顔の見える範囲の信頼が有効に機能する場面が多いことが考えられる.しかし,有機農業がいっそう飛躍する段階では,固有の歴史性と検査認証の両立が求められる.フランスの経験を見ると両者の両立は以下のようにまとめられる.第1に認証制度の原型が有機農業者らの活動と実践を通して形成されたこと,いわば,グラスルーツイノベーションとして生み出され,決してトップダウンによる制度形成ではない.第2に認証制度は有機農業に限定されない地理的表示等を含めた品質政策の一環をなし,生産者に広く普及していること,そして,生産者らが規則解釈に関わるとともに,少量多品種の野菜生産者でもアクセス可能な操作性を備えている.第3に有機農業の原則を特に重視するN&Pに見る参加型認証にあっても,情報の非対称性を解消するための最大限の透明性の確保と履行確認がその仕組みの第一義的特性であり,有機農業の歴史性と検査認証を両立させるたゆまない努力と試行錯誤の積み重ねにより成り立っていることである.