サプライチェーン・リスクに対するプロアクティブ行動

リコーにおける中国からタイへの生産移管の事例研究 20 Ryosuke

抄録

現代の事業環境において，製造業者はサプライチェーン・リスクに対して組織的なアプローチを採用することが求められている．しかし，過去に経験のないリスクへの対応について，一部のリーダーの判断に委ねることは組織の脆弱性を高めることになる．こうした場合，リーダー以外の構成員の主体的な行動が期待される．本稿が対象とするのは，国家間の貿易摩擦による制裁関税のような，政治的対立が経済に影響を及ぼすリスクである．本稿では，米国の対中制裁関税の影響を回避するために，リコーが中国からタイへ生産移管する事例研究を通じて，リスクがゆ っくりと進行する間に，サプライチェーンの構成員に「プロアクティブ行動」が見られることに注目する．この行動は，日本の製造業におけるサプライチェーン・リスク管理の過去の事例研究で取り上げられてきた，突発的に発生し，影響が大きい途絶リスクで見られる行動とはタイプが異なるという見解を示す．