【目的】眼球運動は高齢者の姿勢制御に影響を及ぼすが、滑動性追従眼球運動(SPEM)の影響、さらに垂直方向の眼球運動の影響には不明な点も多い。地域在住高齢者(高齢者)での垂直眼球運動負荷による姿勢制御への影響を明らかにするため、衝動性眼球運動(SEM)及びSPEM負荷による立位時の重心動揺を検討した。
【対象及び方法】対象は高齢者20名(75.6歳)と若年者13名(21.6歳)。眼鏡型視線解析装置(Tobii Pro Glasses 3)を装用し、視角30°、0.33 Hzの水平及び垂直方向のSEM及びSPEM負荷時の眼球運動と頭部運動、重心動揺を計測し、眼球運動gainの推定値、頭部の回転角速度の絶対値、左右及び前後方向の軌跡長を解析に用いた。
【結果】高齢者での垂直眼球運動負荷時の動揺軌跡長は、前後方向で増加し(SEM: p=.049、SPEM: p=.014)、SEMよりSPEM負荷で増加した(p=.048)。高齢者で垂直SEM gainの推定値は水平SEMより低値を示し(p=.024)、若年者に比べ低値を示した(p=.009)。またSPEM gainでは、水平及び垂直運動ともに低値を示し(p<.001)、垂直運動でより低値を示し(p=.014)、若年者との相違を認めた。頭部運動には差を認めなかった。
【結論】高齢者において、水平に比べ垂直眼球運動は前後方向の重心動揺を増大させ、その影響はSPEM負荷で大きく、垂直眼球運動gainの若年者との相違の関連が示唆された。