抄録
リノール酸メチルの選択的水素添加を目的として, 11種のステロイド, 6種のテルペン, 及びアルカロイド1種を水素源とし, RhH (PPh3) 4及びRuH2 (PPh3) 4等を触媒とした系の反応を検討した。多くの天然物に高い水素供与能が見いだされたが, 特にコレステロール-RhH (PPh3) 4系においては, リノール酸メチルの転化率が高く, 生成物はモノエンのみであり, トランス二重結合の生成は少ない, というすぐれた結果が得られた。
この反応系で, 他の基質の反応も行い, 次の様な結果を得た。 (1) trans-9, trans-12-オクタデカジエン酸メチルの反応性は, リノール酸メチルのそれとほぼ等しく, エライジン酸メチルの反応性もオレイン酸メチルのそれにほぼ等しい。 (2) アルカリ共役化で得た共役オクタデカジエン酸メチルの反応性は, 非共役ジエン類のそれと比べ著しく低い。 (3) 共役及び非共役ジエンの反応では, 飽和化合物は生成しないが, 一方オレイン酸メチル, エライジン酸メチルは水添を受ける。これはモノエンはジエンが共存しないときは水添を受けるが, ジエンが共存すると水添を受けないことを示している。 (4) 共役ジエンが共存しない場合, 孤立二重結合中のシス-トランス比は一定となり, その値は3 : 1である。