抄録
食用油脂は体内に摂取されると, それを構成している脂肪酸が最終的に生体を構成している細胞へ送られ, ミトコンドリアでβ酸化されてエネルギーに転換される。従って, 食用油脂は動物にとって重要なエネルギー源となっている。しかし, 一部の脂肪酸はエネルギーとしては消費されず, 生体膜を構成するリン脂質の合成材料として用いられる。リン脂質は単に生体膜の流動性を保持するだけではなく, 生理的に重要な脂肪酸を貯蔵し, 必要に応じて細胞に遊離型を供給する役割を有している。一般に, リン脂質にはn-6系の不飽和脂肪酸としてリノール酸やアラキドン酸が結合している。また, n-3系の不飽和脂肪酸としてはα-リノレン酸がさらに転換された長鎖の多価不飽和脂肪酸, 例えばイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸が結合している。
リノール酸がそれ自身どのような生理作用を持っているかということに関して, 皮質表面の漏水防止作用が知られているに過ぎないが, 我々はミトコンドリア機能に対する新たな役割を最近明らかにしたのでここに述べる。アラキドン酸に関しては, イコサノイド前駆体として多くの研究がなされているが, 今回はヒト血小板における役割に関して我々の知見を示す。一方, n-3系不飽和脂肪酸の機能に関して, 分子レベルの研究はほとんどなされていない。従って, n-6系不飽和脂肪酸に対してきっ (拮) 抗的な作用を示すn-3系不飽和脂肪酸の作用について, 我々が得たデータを中心に述べる。