抄録
団塊世代の熟練職員の大量退職や,不況時の採用抑制による若手人材の不足により,安全管理のノウハウが現場から消失しはじめるなど,様々な要因による労働安全衛生水準の低下が懸念されており,こうした状況を証明するかのように,作業,環境的要因や管理的要因による労働災害が発生している.そこで,人の不安全行動を抑制し注意力を維持,補完する作業者支援策として「ITを活用した新しい安全管理手法」の開発が厚生労働省の計画の下に,(独)労働安全衛生総合研究所と(社)日本鉄鋼連盟の連携によって進められた.本稿は,このうち,労働安全衛生総合研究所が中心となって開発したシステム設計ガイドについて述べる.設計ガイドの開発にあたっては,情報の全ライフサイクルを対象にリスク関連情報を活用する際のあるべき姿を考察するとともに,鉄鋼業における労働災害分析結果を基にITを活用した安全管理システムの有効性を検証した.また,設計ガイドの開発では,産業現場での実用性を考慮してガイドをタイプA,B,C の階層化モジュール構成として構築するとともに,事業場のシステム導入担当者が後述するリスクアセスメント総括表などのいくつかの表を埋めるだけで比較的簡単にシステム設計に必要な安全上の要求事項を抽出できるように配慮した.以上の結果は,第11次労働災害防止計画に掲載された「ITを活用した安全衛生管理手法の普及促進」に活用できると考える.