2022 年 15 巻 2 号 p. 105-112
小規模な建物の外壁を解体する際,現場では転倒工法と呼ばれる工法が用いられている.この工法では,作業の最初に,外壁の建物外側への転倒防止のためにワイヤロープ等の引張材を外壁に設置する.次に外壁を引き倒せる程度に切り出して,外壁下部を切削し,その後,引張材を用いて外壁を引き倒している.この外壁下部の切削作業中に外壁の転倒災害が発生しており,その原因の一つに,引張材の過度な張力が考えられる.そこで,引張材の張力に関する実験を行い,転倒工法における,引張材の適切な張り方について検討した.引張材の張力とたるみの関係を調べた結果,引張材は,ややたるんだ状態に設置すれば良いことが分かった.一方で,引張材を用いて外壁を引き倒すとき,外壁下部を切削しているため,外壁下部の鉄筋が座屈する等の損傷をして,外壁が転倒する.そこで,引張材の張力と外壁下部に作用する力の関係について確認した.その結果,弾性範囲において外壁下部に作用する力は引張材の張力に比例することが分かった.