2022 年 15 巻 2 号 p. 123-130
化学反応の熱的危険性を評価するのに有用な反応熱量計では,伝熱遅れによって実際よりも低い発熱速度が計測される.そのため,ヒートパルスなどの意図的に与えた発・吸熱の計測結果を基に,時定数を用いた伝熱遅れの補正を行う必要がある.本研究では伝熱遅れ補正の精度向上を目的に,高次の時定数を用いた伝熱遅れ補正法を開発し,ヒートパルス測定結果との比較から高次化による精度向上と多段伝熱の影響を時定数に組み込めているか調査を行った.また,ヒートパルスの発熱源位置が試料容器の内部にあるか,外部にあるかによって,得られる時定数が変化することを測定した.ヒートパルス測定結果と高次の時定数による伝熱遅れ補正の結果から,試料容器外部の発熱源では内部の伝熱遅れを十分に検出できず,補正に用いた場合,発熱速度が過小評価されることが示唆された.加えて,水酸化ナトリウムの水への溶解時の発熱速度の測定から,発熱源位置の差異が算出される発熱速度に影響を与えることを確認し,適切な伝熱遅れ補正が実施できていない場合,伝熱遅れの影響を除けないことで,より低い発熱速度が算出されてしまう問題を明らかにした.