労働安全衛生研究
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調査報告
労働者における心理,身体的要因による認知機能低下の検知における認知機能チェックツールの有用性の検討
大本 周作 木之下 節夫増田 圭司
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2024 年 17 巻 2 号 p. 127-132

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抄録

労働者の高ストレス,睡眠不足等の心理,身体的負荷は集中力の低下等の認知機能低下を引き起こし,労働災害や労働生産性の低下の誘因となる.時間見当識課題に対する回答および音声特徴量を用いて,認知症における認知機能低下を検知可能なスマートフォンアプリケーションであるONSEIを用いて労働者の心理,身体的要因による認知機能低下の検出が可能か予備的検討を実施した.153名(年齢中央値47歳)の労働者を対象に60日間毎日リマインドのメールを送付し,ONSEIの実施,及び当日の心理,身体症状と前日の睡眠状況や飲酒量についてのアンケートへの回答を依頼した.その結果,毎日のアンケートで,当日の気分の落ち込みや不安がある被験者では有意にONSEIが陽性となることが多かった(オッズ比 1.87,p<0.01).一方,自覚的な体調不良,前日の睡眠障害,多量の飲酒は,ONSEI陽性と有意な関連はなかった.試験終了後の行動変容に関するアンケートでは,認知,精神の健康に関する認識の変化,および適切な睡眠と水分補給の心がけの変化がみられた.本研究の結果から,気分の落ち込みや不安でONSEIの陽性率が上昇することが示唆されたが,その検知感度はスクリーニングツールとしては十分ではなかった.一方,このような取り組みにより労働者の心理的,身体的健康に対する認識の変化や行動変容が得られる可能性が示唆された.

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© 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
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