労働安全衛生研究
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17 巻, 2 号
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巻頭言
原著論文
  • 緒方 裕子, 山田 丸, 鷹屋 光俊
    原稿種別: 原著論文
    2024 年17 巻2 号 p. 87-92
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    金属は,過剰に摂取することでヒトの健康に影響を及ぼすことはよく知られており,化学形態や溶解性により体内への取り込みや毒性が大きく変化する.クロムやニッケルは,水溶性・非水溶性により有害性が異なるが,このような粒子が体内に取り込まれた場合の溶解性や,有害性については不明な点が多い.そこで,本研究では大気環境分野において粒子の水溶性・非水溶性成分の組成や混合状態を個別粒子単位で調べる水透析法を,労働衛生分野に応用する方法について検討した.捕集材としてポリカーボネートメンブレンフィルター(PCフィルター)を使用し,走査型電子顕微鏡(SEM)による水透析法の実験条件について標準粒子を用いて検討した.導電性処理,水透析による粒子流出,コーティングの膜厚,親水化処理の4点について検討した結果,粒子捕集前に膜厚約5 nm,粒子捕集後に膜厚約2 nmでPCフィルターにカーボンコーティングを行い,水透析前のSEM観察後に親水化処理を行ってから水透析を約2時間行い,その後乾燥させた試料の同一視野を再度SEM観察するという方法が最も水透析に適していることが示唆された.

  • 和崎 夏子, 高橋 明子
    原稿種別: 原著論文
    2024 年17 巻2 号 p. 93-104
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー

    不注意は人間の特性として避けられないが,些細な不注意であっても大きな事故につながることがある.本研究では,不注意に起因する労働災害の特徴を明らかにすることを目的とした.労働者死傷病報告に基づく労働災害に関する情報を公開する『職場のあんぜんサイト』のデータベースより,平成29年のデータ31,496件を対象に,不注意に起因すると考えられる個別事例を抽出し,業種,事故の型,年齢,不注意が生じた状況,不注意の種類および注意すべきであった対象について分類を行った.その結果,①不注意に起因する転倒災害は労働災害全体における転倒災害が占める割合に比べ約1.5倍高い,②労働災害全体の傾向と同様に,不注意に起因する労働災害は高齢者になるほど増加する傾向がある,③注意の容量に起因する労働災害が多い(不注意に起因する災害の約7割を占める),④業種により労働災害が発生しやすい状況と注意すべき対象に特徴があることが示唆された.これらの結果より,労働現場における不注意の特徴への理解の重要性と,それに基づく安全対策の検討について述べる.

  • -ARCの酸化発熱速度による限界発火温度の推定-
    崔 永樹, 村井 浩也
    原稿種別: 原著論文
    2024 年17 巻2 号 p. 105-111
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    実際の現場で使用されている微粉炭における自然発火リスクを評価するために,高圧示差走査熱量測定を行い発熱熱開始温度や発熱量を確認した.また,自然発火試験により発火までの誘導時間や,断熱型暴走反応熱量計を用いて熱暴走までの時間を推算した.これらの結果,微粉炭が酸化発熱によって蓄熱しやすいことや,微粉炭中にホットスポットが存在する場合,熱暴走までの時間が数分以内に発火し,異常時には火災の危険性が高いことが示唆された.

    限界発火温度の試算をするために新しいアプローチとして,断熱型暴走反応熱量計(ARC)で測定した酸化発熱速度式を基にシミュレーションを行った.その結果,微粉炭が約200Lのスケールで堆積した場合の限界発火温度は約314Kと試算された.これは真夏において自然発火する可能性があることが示唆された.この一連の手法を参考に,微粉炭に限らず,自然発火性がある物質が堆積する場所での蓄熱発火危険性評価に活用できると考えている.

短報
  • 崔 光石, 遠藤 雄大, 鈴木 勇祐, 栁田 建三, 白松 憲一郎
    原稿種別: 短報
    2024 年17 巻2 号 p. 113-118
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー

    本稿では,粉体塗料用静電塗装ガンから発生する異常放電による着火危険性について,2つの方法(放電電荷量測定実験とガス爆発実験)により検討した.どちらの実験においても,放電ギャップ(塗装ガンのノズル先端部-接地電極間の距離)を10mm一定とし,ガス爆発実験ではメタン-空気混合ガス(約12.0%)を使用した.その結果,いずれの実験条件においても,静電塗装機の安全装置である過電流遮断回路(OCL)が有効な状態では,異常放電は発生しなかった.また,OCLを解除した場合,電流制御装置の設定値が通常値(-80μA)およびこれに近い値の場合(-110μA)には,放電電荷量は70nC(絶対値)以下となり,この条件では着火しなかった.一方で,より大きな設定値(-120μA,-130μA,-140μA)の場合には,放電電荷量は1,500nC(絶対値)以上となり着火した.この電荷量は,EN 50050-2の定める着火リスク管理値200nC(絶対値)を大きく超えている.以上のように,異常放電の放電電荷量とガス着火・爆発実験結果との間に明確な相関関係が確認されたことから,事前に放電電荷量を把握することで異常放電による着火リスクを評価することができる.

調査報告
  • 廣川 空美, 藤吉 奈央子, 吉田 知克, 大平 哲也
    原稿種別: 調査報告
    2024 年17 巻2 号 p. 119-125
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/09/09
    ジャーナル フリー

    大阪府下の精神科専門医療機関において,コロナ禍による業務の増加,オンライン診療の提供,職場復帰支援(リワーク支援)サービス提供に関連する医療機関の要因を明らかにすることを目的に実態調査を行った.調査対象は,大阪府下の精神科専門医療機関615件であった.調査協力に同意の得られた173件から記入済み調査票を回収した(回収率28.1%).調査の結果,“オンライン診療の提供可能”は9.8%であった.コロナ禍による診察・相談対応が「増えた」という回答は53.8%で,「増えていない」や逆に「減った」という回答は39.9%であった.新型コロナ感染症罹患後の診察・相談対応が可能という回答は68.8%であった.コロナ禍の影響により業務が増えた医療施設においては,カウンセリングや職場復帰支援(リワーク支援)も含め多様なサービスを提供していることが示唆された.特にメンタルヘルス不調の従業員が受診する際に職場のスタッフの同席が可能であること(OR=5.14, 95%CI: 1.65-16.04),新型コロナ感染症罹患後の診察・相談対応が可能である場合(OR=5.23, 95%CI: 1.63-16.76)、業務が増えたという回答が多くなっていた.職場復帰支援(リワーク支援)サービスの提供が可能な医療機関でオンライン診療の提供が可能という回答が多かった(OR=4.03, 95%CI: 1.22-13.36).さらに,職場復帰支援(リワーク支援)サービスの提供には心理職者の在籍により可能という回答が多かった(OR=2.79, 95%CI: 1.11-11.52).産業医資格を持つ医師の在籍によって,職場のメンタルヘルスの相談や,「職場復帰支援に関する情報提供書」への対応,ストレスチェック実施の受託,ストレスチェック後の高ストレス者への対応などを可能としていることから,職場のメンタルヘルス対策に関わるサービスの提供につながることも示された.コロナ禍における精神科医療機関の職場のメンタルヘルス対策について,多様なサービス提供を可能にするためには,設備や人的資源の確保が必要であることが示唆された.

  • 大本 周作, 木之下 節夫, 増田 圭司
    原稿種別: 調査報告
    2024 年17 巻2 号 p. 127-132
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/08/23
    ジャーナル フリー

    労働者の高ストレス,睡眠不足等の心理,身体的負荷は集中力の低下等の認知機能低下を引き起こし,労働災害や労働生産性の低下の誘因となる.時間見当識課題に対する回答および音声特徴量を用いて,認知症における認知機能低下を検知可能なスマートフォンアプリケーションであるONSEIを用いて労働者の心理,身体的要因による認知機能低下の検出が可能か予備的検討を実施した.153名(年齢中央値47歳)の労働者を対象に60日間毎日リマインドのメールを送付し,ONSEIの実施,及び当日の心理,身体症状と前日の睡眠状況や飲酒量についてのアンケートへの回答を依頼した.その結果,毎日のアンケートで,当日の気分の落ち込みや不安がある被験者では有意にONSEIが陽性となることが多かった(オッズ比 1.87,p<0.01).一方,自覚的な体調不良,前日の睡眠障害,多量の飲酒は,ONSEI陽性と有意な関連はなかった.試験終了後の行動変容に関するアンケートでは,認知,精神の健康に関する認識の変化,および適切な睡眠と水分補給の心がけの変化がみられた.本研究の結果から,気分の落ち込みや不安でONSEIの陽性率が上昇することが示唆されたが,その検知感度はスクリーニングツールとしては十分ではなかった.一方,このような取り組みにより労働者の心理的,身体的健康に対する認識の変化や行動変容が得られる可能性が示唆された.

  • 藤原 秀起, 永田 智久, 小田上 公法, 森 晃爾
    原稿種別: 調査報告
    2024 年17 巻2 号 p. 133-141
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,健康経営優良法人に認定された中小企業における経営者の,労働者の安全と健康に関する状況の把握および外部への開示意向について検討した.その結果,経営者は労働災害に関する情報を数値化して把握している一方で,離職意思や知覚された組織的支援(Perceived organizational support: POS)などの情報は把握していないことが明らかになった.また,従業員のストレスや,ワーク・エンゲイジメントの把握意向は高いものの,従業員の運動状況の把握意向は低い傾向にあった.このことから,経営者たちは従業員の精神的健康や,勤務への意欲を重要視しているものの,生活習慣の改善につながる情報の把握には重きを置いていない可能性が考えられた.さらに,経営者が情報を把握していない,または把握意向が低い要因として,離職意思やPOSなどの情報収集が法令で義務付けられていないこと,労働安全衛生に関する専門知識の不足,個人情報保護に対する懸念が考えられた.情報の開示意向では,労働災害件数と度数率・強度率に関する情報の開示意向が特に高く,積極的に社外にこれらの情報を公開すべきであるという認識が広がっていることが示された.しかし,情報開示のためには適切な指標の把握が前提となる.したがって,産業保健スタッフや,外部専門機関が経営者の意向に沿った指標の把握と開示を支援できれば,評価や改善の取り組みが進む可能性がある.

  • -多職種連携による調査から-
    辻󠄀村 裕次, 北原 照代, 嶋川 昌典, 白星 伸一, 鈴木 ひとみ, 垰田 和史
    原稿種別: 調査報告
    2024 年17 巻2 号 p. 143-152
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    [早期公開] 公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    就労障害者には個々の障害に応じた安全衛生が求められる.そこで,災害事故の実態把握および障害者特性と作業方法・環境の評価を目的に,障害者が就労する6民間事業所と就労系福祉サービスを行う4作業所を訪問調査した.災害事故例,障害者への配慮を含む安全衛生管理,障害者の就労と退職の状況を聴取し,作業方法・環境を観察した.

    事業者の従業員特性に対する高い理解と就労障害者の作業能力から障害を理由とした作業起因事故はなかった.知的・発達・精神障害者の安寧確保のために静かな環境創出等の配慮が行われていた.発達・精神障害者の医学的特性や,てんかん・精神疾患のある従業員の服薬管理と発作時の対応が事業者には理解されにくかった.肢体障害者には,その身体機能に応じた物理的環境が整備されていた.進行性疾患や加齢による身体機能低下が懸念される障害者には,定期的な身体機能評価により作業環境等を調整する必要のあることが把握できた.福祉的就労では,座位で単調繰り返し作業が多く行われ,利用者が集まる密度を低くする工夫は見られたものの,転倒衝突の事故が多く,一般企業で通常行われている作業負担軽減策が不十分であった.就労障害者の安全衛生には,医療や労働衛生,就労系障害者福祉,中小規模事業所経営の総合的観点から就労障害者の生活面を含めて相談・指導できる専門家や介入の仕組みが必要と考えられた.

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