抄録
平成18年4月,改正労働安全衛生法の施行に伴い,事業場でのリスクアセスメントの実施が努力義務化され,建設業においてもリスクアセスメント導入が活発化している.筆者は平成18年度から平成20年度にかけ,リスクアセスメント導入期の実態を調査した.その結果,中小建設業者におけるリスクアセスメント推進上の課題として,死亡災害が多発している作業であってもその危険性が十分に評価されていないものがあること,リスク適正評価のためには科学的根拠となるものが必要になるが,既往の労働災害データ分析結果はリスク評価の対象となる個別作業にまで踏み込んでおらず,その活用には限界があること等が明らかとなった.
このような課題を解消するため,わが国建設業の死亡災害を対象に各種作業等別にデータ分析を行い,特に重篤度が高い作業等(類似災害が2件以上のもの)を抽出した.この中には,重機の移動,クレーン・ドラグショベルによる荷上げ・荷下ろし作業,建物解体作業等,死亡災害が頻発している作業等の詳細分析はもとより,現場等での人の移動,資材置場での作業,土木工事における測量・写真撮影,除雪作業,建築工事における人による資材運搬,台風被害に伴う復旧作業等,従来あまり取り上げらなかった作業の重篤度の高さに注目することができた.中小建設業者のリスク適正評価を支援するため,これらの情報提供を行うことが有効である.