労働安全衛生研究
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3 巻, 1 号
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巻頭言
特別寄稿
追悼文
原著論文
  • 甲田 茂樹, 熊谷 信二, 佐々木 毅, 吉田 仁
    2010 年 3 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    病院の病理検査室で働く検査技師のホルムアルデヒドばく露を評価するために,勤務時間およびホルムアルデヒドを直接取り扱う作業におけるパッシブサンプラーを用いたばく露測定を実施した.二つの病院の病理検査室に勤務する9名の検査技師に協力していただき,TWAを想定した勤務時間中のばく露測定を30事例,STELを想定したホルムアルデヒドを直接取り扱う作業の短時間ばく露を11事例について実施し,一日の労働時間やホルムアルデヒドの高濃度ばく露が予想される作業でのばく露時間との関係を検討した.なお,ホルムアルデヒドのリスクアセスメントを行う際の判断基準としては,わが国の管理濃度と日本産業衛生学会の許容濃度,ACGIHのTLVを参考にした.病理検査室で働く検査技師の勤務時間中のホルムアルデヒドばく露測定を実施した結果,その三分の二で許容濃度の0.1ppmを超えていた.ホルムアルデヒドのばく露濃度は,ホルムアルデヒドを直接取り扱う作業の時間と有意な高い相関(Pearsonの相関係数=0.791, p=0.000)が認められ,さらに,その取り扱う作業時間が1時間を超える(60.0%)と,1時間以下の場合(6.7%)に比べて許容濃度の0.1ppmを超える比率が有意に高くなっていた(χ2-test,p=0.005).ホルムアルデヒドを直接取り扱う作業における短時間ばく露測定結果では,半数近くが日本産業衛生学会(0.2ppm)やACGIH(0.3ppm)の提案する天井値としてのばく露基準も超えていた.病理検査室に勤務する検査技師のホルムアルデヒドばく露の低減対策を実施するためには,ホルムアルデヒドを直接取り扱う作業に関しては,局所排気装置を備えたドラフト内部で行うことを徹底することが必要であろう.
  • -導入途上の状況と今後の展望-
    渡辺 裕晃, 甲田 茂樹, 佐々木 毅, 鶴田 由紀子, 伊藤 昭好, 原 邦夫, 堤 明純, 山口 秀樹, 丸山 正治
    2010 年 3 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    多様な業種を抱える地方自治体を対象に,労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の中核を占めるリスクアセスメントを参加型志向の研修で行いながらOSHMS導入作業を進め,OSHMSの導入過程の課題と,もたらされた効果について検討した.某地方自治体(職員約2000名)の10の安全衛生委員会(14部署)を対象に,2007年6月~2008年6月にOSHMS概要・導入研修,2008年8月に質問紙によるベースライン調査,2008年8月~2009年5月に安全衛生委員会ごとのリスクアセスメント研修と,全体での産業ストレス対策のための研修を実施した.ベースライン調査結果から職場環境等が悪いと心理的・身体的ストレス反応が高いという関連が職場特異的に認められ,職場環境等-ストレス反応図がリスクアセスメント研修に用いるツールとして活用できる可能性が示唆された.ベースライン調査時点での職場環境等に対する対策や改善の実施率は現業系部署で高かったものの,産業ストレス対策のためのリスクアセスメント研修で提出された良好事例・改善提案は事務系部署からも数多く提出されたことから,一連の研修を実施したことにより安全衛生活動が活性化されたと考えられた.よってリスクアセスメント手法を取り入れた研修を実施することが実践的な安全衛生活動を進める上で効果的であると考えられた.OSHMS導入過程であるにもかかわらず労働災害発生件数は2年で半減した.
  • 高木 元也
    2010 年 3 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    平成18年4月,改正労働安全衛生法の施行に伴い,事業場でのリスクアセスメントの実施が努力義務化され,建設業においてもリスクアセスメント導入が活発化している.筆者は平成18年度から平成20年度にかけ,リスクアセスメント導入期の実態を調査した.その結果,中小建設業者におけるリスクアセスメント推進上の課題として,死亡災害が多発している作業であってもその危険性が十分に評価されていないものがあること,リスク適正評価のためには科学的根拠となるものが必要になるが,既往の労働災害データ分析結果はリスク評価の対象となる個別作業にまで踏み込んでおらず,その活用には限界があること等が明らかとなった.
    このような課題を解消するため,わが国建設業の死亡災害を対象に各種作業等別にデータ分析を行い,特に重篤度が高い作業等(類似災害が2件以上のもの)を抽出した.この中には,重機の移動,クレーン・ドラグショベルによる荷上げ・荷下ろし作業,建物解体作業等,死亡災害が頻発している作業等の詳細分析はもとより,現場等での人の移動,資材置場での作業,土木工事における測量・写真撮影,除雪作業,建築工事における人による資材運搬,台風被害に伴う復旧作業等,従来あまり取り上げらなかった作業の重篤度の高さに注目することができた.中小建設業者のリスク適正評価を支援するため,これらの情報提供を行うことが有効である.
  • -英国HSEが示したリスク管理目標の達成手法に関する考察-
    梅崎 重夫, 濱島 京子, 清水 尚憲, 宮川 高志
    2010 年 3 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    英国HSEが示したリスク管理目標では,労働者一人あたりの死亡労働災害の発生確率を10-6回/年未満に設定している.しかし,この目標を達成するための一般的な方法論は必ずしも明確でない.そこで,人間機械作業システムにおける危害の発生確率をマルコフ解析に基づいて定量的に推定できる評価式を提案し,この式を基に前記目標の達成手法を考察し,次の結果を得た.1)目標の達成は,人の注意力に依存する管理的対策だけでは困難で,制御システムの安全関連部に対する異種冗長化及び自動監視技術の適用が不可欠である.2)人の注意力が期待できないときでも,所定の条件の下で,制御システムの安全関連部のセンサ及びプロセッサのチェック間隔を単一系のときは10-5h(約30msec)以内,異種冗長二重系のときは0.05h(3分)以内,異種冗長三重系のときは0.5h(30分)以内などとすれば目標の達成は可能である.3)保護方策を無効化する危険点近接作業では,上記目標は一般に達成できない.ただし,ALARPに関する目標値として死亡労働災害の発生確率を10-4回/年未満に設定したときは,設備的な保護方策と管理的対策の連携によって,この目標を達成できる場合がある.
総説
  • 松本 俊次
    2010 年 3 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    「機械の包括的な安全基準に関する指針」の公示,「機械類の安全性」に関するJIS B 9700などの刊行により,わが国の産業界においてもリスクアセスメントによる機械安全化が実施されるようになってきた.しかし大多数の事業所におけるその実態をみると,設計フェーズと運用フェーズに限定されたものとなっている.本稿では全ライフサイクルの各フェーズで今後取組むべきリスクベースド・アプローチによる機械類の安全化の課題,および今後活用すべき有用なリスクアセスメント手法について述べる.また,安全と品質は表裏一体の関係にある.そこで設計フェーズにおいてリスクベースド・アプローチで得られた機械類の安全設計品質の健全性を運用フェーズに至るまで維持しなければならない.このためOSHA/PSMの規定する機器類の健全性(mechanical integrity)の考え方を参考に,機械設備の安全性の確保に必要とする品質安全マネジメントのあり方についても言及する.
事例報告
  • 久保 智英, 佐々木 司, 松元 俊
    2010 年 3 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,長時間過密労働をシミュレートした環境下での,1)情動的負担の変容過程,2)情動的負担と行動的疲労の関係を明らかにするために事例的検討を行った.その際,情動的負担が顕著だった事例と,同じ状況にあっても情動的負担が抑制されていた事例に着目した.結果より,「怒り-敵意」因子に属する訴えは,行動的疲労が亢進する上での重要なサインであること,情動的負担と行動的疲労との関係は情動的負担が高い時に行動的疲労が軽・中程度で,情動的負担が低くなると行動的疲労は高くなる関係にあることが示唆された.
調査報告
  • 毛利 正
    2010 年 3 巻 1 号 p. 55-66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    産業機械のリスクアセスメントについて,2006年の労働安全衛生法の改正施行以降,事業場の取組みが着実に進んでいる.機械メーカー及びユーザーのそれぞれ1社について,どのような組織体制,方法によりリスクアセスメント及び保護方策を行っているかを実機の安全化の事例を含めて明らかにした.このうち,機械ユーザーの例では,納入機械のメーカーに対して,国の指針に沿って要求したことにより,残留リスクを含む使用上の情報が提供されるようになったことが確認できた.ここで取り上げたような正当な手法によるリスクアセスメント及び安全技術に基づくリスク低減の取組みが,機械メーカー及びユーザーにおいて,今後大きく拡がっていくことを期待する.
資料
  • -ALARP達成手法の開発とシステムへの展開-
    豊田 寿夫
    2010 年 3 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/27
    ジャーナル フリー
    厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では,ALARPレベルまで適切にリスクを低減すべきことを明記している.しかし,ALARPレベルまでリスクが低減できたかどうかを確認できる具体的手法はこれまで開発されていない.そこで,同指針に準拠し,わが国における最近の研究成果も一部取り入れて,ALARPレベルの達成を確認できる新しいリスクアセスメント手法を開発した.これにより,労働安全衛生法第28条の2に従って実施するリスクアセスメントと,告示113号指針により運用する労働安全衛生マネジメントシステムの有機的な連携が可能となる.
技術解説
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