抄録
土砂災害による死因は窒息と圧迫が多く,これらは埋没した際に胸部を圧迫されたことが原因となっている.本研究では,土砂の圧迫から胸部を守る器具に必要な強度の解明を目的に,実験的な検討を行った.この実験では,崩土の圧力を計測するために胸部の模型を作製し,これを実際の崩壊土砂に埋没させた.その結果,土砂圧力は初めに落下による衝撃が作用し,続いて堆積による圧力へと推移することがわかった.正面の堆積圧力は埋没向きによらずほぼ鉛直圧力相当が上限となることを明らかにし,埋没深さが1m以下では衝撃圧力が必要強度の支配要件となることがわかった.次いで,人間工学的な検討から生存限界の作用圧力と限界たわみ度の関係を推定し,胸部の圧縮形数kaを求めた.さらに,安全帯の構造規格に定められた静的荷重と動的荷重の関係を援用して,衝撃圧力の上限値PDを推定した.圧縮形数kbの保護具を装着した胸部を並列バネでモデル化し,PDが作用した時に傷害レベルを軽傷以下とするために必要な保護具の圧縮係数と強度を導いた.以上のとおり,本研究では小規模崩壊をターゲットに,労働者が土砂に埋没しても命を守るために必要な胸部保護具の性能の考え方を提案し,実験的解析と人間工学的検討に基づいた試算の結果を示している.