抄録
本研究は、目的地にたどり着くまでの歩行におけるアクションに注目し、ナビゲーションツールの利用がその生起傾向に与える影響を分析することで、都市空間における状況的認知と歩行との関係性について考察することを目的とした。ナビゲーションツールを用いたときの人々の歩行の特性と都市空間の記憶について実証的に分析した結果、GPSのような誘導的なナビゲーションは、人間と実空間との直接的な相互関係を希薄にする方向へとアクティビティの質を変容させ、ナビゲーションツールを用いない場合とは異なる記憶を形成させる可能性が示された。今後は、GPSナビゲーションの特性を考慮した上で、街のリアルな身体感覚がもたらす安全で快適な外出活動を支える都市空間構造の検討や、直接的な空間体験とそれによって形成される記憶がもたらす街の魅力を向上させるような都市空間デザインのあり方の具体的な探求を目指す。