抄録
本研究は、都市の魅力形成を図る上で重要となる土地利用コントロールと歴史的環境保全の関係を再考することを目的とし、日本の制度と近隣国である韓国、台湾の制度とを比較考察するものである。3カ国の両制度を整理・分析した結果、以下のことが明らかになった。韓国と台湾では、1)文化財保護の枠組みでは日本の伝建地区制度に相当するような面的保全制度は十分には確立していない一方で、指定対象は建造物等の単体であっても、その周辺地区に開発規制が及ぶ仕組みや容積移転の仕組みが文化財保護制度に組み込まれているなど、文化財保護と都市計画の協働を前提とした枠組みが法規上成立している。2)町並みや建造物群の総合的保全という目的のためには、地区を指定し、その中で詳細コントロールを行う都市計画の手法の方も重視されている。3)都市戦略において歴史的環境に重点をおいており、それを実現するために法制度の更新や大胆な活用が行われている。こうした両国の取組みは、伝建地区制度は確立しているが、都市計画による保全の仕組みがきわめて弱い日本にとって、大いに示唆のあるものと考えられる。