2019 年 8 巻 1 号 p. 138-146
糖尿病網膜症(DR)は,糖尿病(DM)の合併症であり,眼内に生じる異常新生血管が失明の原因となる.抗てんかん薬であるバルプロ酸ナトリウム(VPA)は,腫瘍血管新生を抑制することが報告されている.我々は,新生仔期のマウスにおける網膜異常血管新生をVPAが抑制することを明らかにしている.本研究では,ヒトにおいてVPAがDRを抑制し得るか否かを明らかにするため,VPAを服用しているDM患者を対象とした後向き症例集積研究を行った.調査期間中に北里大学病院を受診したVPAの処方歴を有するDM患者を対象として,DR発症の有無,DM罹病期間等を調査した.対象患者86例中8例(9.3%)がDRを発症(DR+患者)していた.DM罹病期間が明確なDR+患者群(7例)とDRを発症していなかった患者(DR−患者)をDM罹病期間により1例対3例でマッチングし(DR−患者群:20例),VPAの処方状況を2群間で比較したところ,DR−患者群において,VPAの1日平均処方量が有意に多いことが示された.これらの結果は,DR発症の抑制にVPAの服用が関与している可能性を示唆している.