Journal of Pesticide Science
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チオロ型有機リン殺虫剤の活性化におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼの関与
宮本 徹山本 出
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1991 年 16 巻 3 号 p. 449-455

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抄録
Prothiophos oxon およびそのS-アルキル同族体 (S-メチル, エチル, ブチル体) をラット肝ミクロゾームーサイトソール系中次の3条件下37℃で30分間反応させた. (a) NADPH, GSH無添加, (b) NADPH添加 (S-oxide 生成条件), (c) NADPHとGSH添加. 反応後砂糖を加えて凍結乾燥し, 感受性高槻系イエバエに給餌し, 各条件下での反応混合物の殺虫効果をみた. 各化合物の用量は. 反応後残存するS-アルキルオキソンによる殺虫効果の発現にかなり時間がかかるよう各化合物のLD50に応じ加減した. 48時間までの殺虫効果の途中経過をみるに, S-メチル体の場合, (c) では (a) に比べ反応後のS-メチル体の量が約1/2にもかかわらず, 死虫率はほぼ同じで, 殺虫効果はS-メチル体によるだけでないことを示唆し, また (b) に比べ, S-メチル体の量がほぼ同じにもかかわらず, 死虫率が高いことは, 反応条件下 S-oxide は生成しても分解しやすいが, GSHにより安定化した殺虫化合物ができていることを示唆している. また (c) からサイトソールを抜いた系では死虫率は減少した. 他の化合物でも同様の傾向が認められた. このことはこれら化合物の殺虫効果に, ミクロゾームーNADPH系による活性中間体 S-oxide のほかに, GSH-グルタチオンS-トランスフェラーゼ (GST) 系が関与する新たな活性中間体の寄与を示唆している.
同上の in vitro 実験系に, 牛赤血球アセチルコリンエステラーゼ (AChE) を添加して反応させたところ, 反応混合物のAChE阻害は, アルキル基の違いにかかわらず, (c) が高く, またGSHの量が多いほど高かった. GST活性の増大した抵抗性八千代系と上記感受性イエバエとに, 上記の反応混合物を与えた場合, (a) では抵抗性系の死亡開始は感受性系に比べ遅いのに対し, (c) では抵抗性系の死亡開始は早くなり, 長い時間に渡り (a) より高い死虫率を示した. 感受性系では (a) (c) 間の差は初期のみであった。
以上の結果から, これら化合物は S-oxide を与え, これがAChEを阻害する一方, GSH-GST系により, GSHに抱合化された活性中間体を与え, このものもAChEを阻害し, 殺虫効果を呈するとの仮説を提示する.
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© 日本農薬学会
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