日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
市町村保健師の行う痴呆電話相談の相談者の実態とその効果について
髙林 智子長田 早千穂平口 志津子大中 敬子片倉 直子石垣 和子
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2002 年 49 巻 12 号 p. 1250-1258

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抄録

目的 保健師が行っている痴呆電話相談の相談者の実態を分析し,電話相談の役割と今後の保健事業のあり方を検討する。
方法 平成11年度 1 年間に受信した相談103件と平成12年度 4 月から 9 月の半年間に受信した相談103件,計206件の相談票をもとに,本調査独自のチェックリストに沿って分類した。その後,クロス表に整理し項目間の関連を χ2 検定し,検討した。
結果 1) 被介護者の最も多い問題行動は,物忘れ106件であった。
 2) 相談者は87件(42.2%)が別居者であり,その続柄では娘からの相談が60件と最も多かった。
 3) 相談者の抱える介護困難感は104件に認められ,精神的介護困難感あり89件(43.2%),社会的介護困難感あり33件(16.0%),身体的介護困難感あり28件(13.6%),経済的困難感あり 8 件(3.9%)で,102件(49.5%)には介護困難感が認められなかった。介護困難感が 2 項目以上ある相談者は42人で,介護困難感のある者の40.4%を占めていた。指定相談日以外の相談者に,身体的介護困難感が有意に多かった(P<0.05)。
 4) 相談内容では,精神症状への介護方法の照会が76件と最も多く,次いで症状の照会36件,在宅福祉サービスの情報照会35件,受診の必要性の確認30件,感情の表出30件と続いた。相談内容と介護困難感との関連で,感情の表出をする者は,精神的(P<0.001),社会的(P<0.01),身体的介護困難感(P<0.05)が共通して有意に多く認められた。
 5) 相談を受信した保健師の経験年数では,10年以上の者が精神的介護困難感を認識する傾向があった(P=0.05)が,他の項目についての有意差はみられなかった。
結論 1) 世帯の縮小化を反映し,別居者,特に娘が痴呆症患者の介護にかかわっていることが示唆され,今後,別居家族も含めた介護者支援を考慮していかなければならない。
 2) 痴呆症の介護者は精神的,社会的,身体的介護困難感を持つことが明らかとなり,介護者への支援として身体の健康管理支援に加え,精神面への働きかけ,地域のサポート育成などの具体的な支援の方向性が示された。
 3) 電話相談の特性により,痴呆症に気づくきっかけとなる物忘れの段階で相談することができ,問題の潜在化,深刻化を防ぐことができる。
 4) 電話相談が相談者の感情を表出する場となり保健師が相談者の訴えを傾聴することで,介護負担感軽減の効果を期待できる。

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© 2002 日本公衆衛生学会
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