抄録
目的 今日までのわが国のハンセン病対策の内容と実態,および対策の残されている課題を明らかにし,正しい理解を得ることは,そのこと自体,極めて重要なことであるが,同時にこれからのわが国の感染症対策や難病対策などを進める上にも,かけがえのない示唆を与えてくれるものであると考えられる。また入所者は,平均年齢が74.9歳(2002年 5 月)となり,大半が重度の後遺症に苦しむ身体障害者の集団である。社会復帰,在園保障などの方策を進める上で,入所者の身体の状況についての的確な理解が不可欠である。そこで本研究は,入所者の受けた被害の実態,および身体障害の状況を明らかにすることを目的として実施したものである。
研究方法 瀬戸内海に位置する 3 か所の国立療養所,長島愛生園,邑久光明園,大島青松園の入所者全員1,282人を対象に調査を行い,818人から直接面接法により回答を得ることができた。調査者が入所者の居室を訪問し,調査票に従って質問をし,得られた返答を回答用紙に記入した。回答者の割合は64%であった。
結果 入所者の平均年齢は72.8歳,入所時の平均年齢は26.0歳で,平均入所期間は52.4年であった。被害の状況では,らい予防法および優生保護法により直接,法律によって受けた被害,社会での差別による被害,家族の受けた被害など,入所者には長期にわたる身体的,精神的,経済的,社会的被害,すなわち人生全般にわたる多様な被害の存在が認められた。
身体の状況では,手先の機能,歩行,視力に高度の機能障害を有する者が多くみられた。歩行障害,視力障害は,年齢および入所期間との関連がみられ,手先の機能障害はそれに加えて患者作業の経験個数との関連がみられた。
結論 わが国のこれまでのハンセン病対策は,ハンセン病患者に取り返しのつかない多大の被害を与え,結果として深刻な後遺症が今日なお,多くの入所者に存在することが明らかになった。社会復帰や在園保証の施策を進めるうえで,今後加齢に伴い予想される一層の身体障害や,後遺症である末梢神経障害に起因する身体障害の進行の予防に対して,十分なケアを保障していく必要がある。