日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 9 号
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原著
  • 青木 美憲
    2004 年 51 巻 9 号 p. 741-752
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 今日までのわが国のハンセン病対策の内容と実態,および対策の残されている課題を明らかにし,正しい理解を得ることは,そのこと自体,極めて重要なことであるが,同時にこれからのわが国の感染症対策や難病対策などを進める上にも,かけがえのない示唆を与えてくれるものであると考えられる。また入所者は,平均年齢が74.9歳(2002年 5 月)となり,大半が重度の後遺症に苦しむ身体障害者の集団である。社会復帰,在園保障などの方策を進める上で,入所者の身体の状況についての的確な理解が不可欠である。そこで本研究は,入所者の受けた被害の実態,および身体障害の状況を明らかにすることを目的として実施したものである。
    研究方法 瀬戸内海に位置する 3 か所の国立療養所,長島愛生園,邑久光明園,大島青松園の入所者全員1,282人を対象に調査を行い,818人から直接面接法により回答を得ることができた。調査者が入所者の居室を訪問し,調査票に従って質問をし,得られた返答を回答用紙に記入した。回答者の割合は64%であった。
    結果 入所者の平均年齢は72.8歳,入所時の平均年齢は26.0歳で,平均入所期間は52.4年であった。被害の状況では,らい予防法および優生保護法により直接,法律によって受けた被害,社会での差別による被害,家族の受けた被害など,入所者には長期にわたる身体的,精神的,経済的,社会的被害,すなわち人生全般にわたる多様な被害の存在が認められた。
     身体の状況では,手先の機能,歩行,視力に高度の機能障害を有する者が多くみられた。歩行障害,視力障害は,年齢および入所期間との関連がみられ,手先の機能障害はそれに加えて患者作業の経験個数との関連がみられた。
    結論 わが国のこれまでのハンセン病対策は,ハンセン病患者に取り返しのつかない多大の被害を与え,結果として深刻な後遺症が今日なお,多くの入所者に存在することが明らかになった。社会復帰や在園保証の施策を進めるうえで,今後加齢に伴い予想される一層の身体障害や,後遺症である末梢神経障害に起因する身体障害の進行の予防に対して,十分なケアを保障していく必要がある。
  • 岡田 玲子, 田辺 直仁, 若井 静子, 樺沢 禮子, 鈴木 宏
    2004 年 51 巻 9 号 p. 753-763
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 幼児における日常食からの亜鉛摂取量と食品群別摂取状況を調査し,身体発育状況への影響と亜鉛摂取量を適正に保つために食生活上考慮すべき点を明らかにすることを目的とした。
    方法 5~6 歳の30人の幼児(男子15人,女子15人)を対象とし,春・秋期に各連続 3 日間(計 6 日間)の食物摂取量の秤量調査と身長・体重の測定を行った。栄養素等摂取量は五訂日本食品標準成分表を用いて算出した。対象児の 1 日当たり亜鉛摂取量の 3 分位値によって低・中・高亜鉛摂取群に分類し,3 群間で身体発育状況と食事要因の比較検討を行った。
    結果 全対象児の平均亜鉛摂取量は6.4±1.1 mg で所要量(6.0 mg)を充足していた。亜鉛摂取量により低亜鉛摂取群が5.4±0.5 mg,中亜鉛摂取群が6.2±0.3 mg,高亜鉛摂取群が7.7±0.6 mg に分類された。身長・体重は亜鉛摂取量が少ない群で低値となる傾向にあったが,春から秋の 5 か月間に全対象児において増加しており,低亜鉛摂取群の身長の伸びが最も大きかった。
     食品群別亜鉛摂取寄与率は,米類(20.53%)が最も高く,肉類(16.28%),乳類(15.57%),卵類(7.45%)および豆類(6.87%)が続き,これら 5 食品群で亜鉛摂取量の66.7%を占め,植物性食品(55%)が動物性食品(45%)を上回った。
     低亜鉛摂取群ほど 1 日当たりのエネルギー摂取量,栄養素等摂取量,および食品群別摂取量が他の群より少なかった。しかし,菓子類からのエネルギー摂取量が 3 群中で最も多かった。
    結語 秤量法による幼児の亜鉛摂取量調査では,低亜鉛摂取群であっても身体発育への負の影響が認められず,米類は主要な亜鉛供給源であることが示された。また,菓子類の多食によって食事量が減少した場合に,亜鉛のみならず,他の栄養素等の適正摂取を妨げる可能性が示唆された。
  • 井深 英治, 大井田 隆, 三宅 健夫, 鈴木 健修, 元島 清香, 原野 悟, 横山 英世, 兼板 佳孝, 金子 明代, 武田 文
    2004 年 51 巻 9 号 p. 764-773
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の大学生のライフスタイルは健全とは言えず,将来の骨量低下が危惧されている状況である。しかし,この時期の生活習慣と骨量の関連性に関する研究は少なく,とくに男子の骨量に関するものはみられない。そこで,本研究は大学生の骨量と生活習慣との関連性を検討することを目的としている。また,本研究では女性ホルモンの影響を受けない男性についても検討をすることで,骨量と生活習慣の関連性をより明確にできることを期待した。
    方法 大学生の男女合計766人を対象に超音波法(ALOKA 社製 AOS-100)を用いて踵骨音響的骨評価値の測定をし,さらに体格測定,生活習慣と食生活の調査,血液検査を行い,それらとの関連性について検討した。
    結果 踵骨音響的骨評価値と身長,体重,BMI,体脂肪率,握力といった体格因子との関連性は男子より女子で強かった。さらに重回帰分析を用い,OSI を目的変数として体格,生活習慣と食生活,血液検査項目を説明変数として分析すると,男女とも定期的な運動習慣の有無が OSI と強い関連性を示した。また,男子ではアルコール摂取群の OSI が非摂取群より有意に高く,その一方で OSI と肝機能値の ALT (GPT) IU/l とには有意な負の相関があった。
    結論 骨粗鬆症の 1 次予防にとって,男女とも定期的な運動習慣を継続することは非常に重要であると考えられた。また,飲酒群の骨量は非飲酒群より有意に高かったが,飲酒頻度が増えて肝機能に影響を与えるほどになると骨量低下の可能性もあることが示唆された。
  • 林 美枝子, 坂倉 恵美子, 堀川 尚子, 片倉 洋子, 岸 玲子
    2004 年 51 巻 9 号 p. 774-789
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,補完・代替療法における家庭内の自己治療の実施状況を調査し,その実施と健康状態,およびその他の社会的健康要因との関連を明らかにするとともに,自己治療の継続的実施の予測因子を検証することである。
    対象と方法 対象は自己治療を現在も実施している可能性が高い環境(孤島で診療所以外の医療サービスが充実していない等)にある在宅高齢者243人である。郵送配布,直接回収による質問紙法の調査を2001年から2002年にかけて実施した。質問項目は年齢,世帯収入等の属性,主観的健康観や18種類の疾病の有無,IADL,社会関係,生活習慣などである。自己治療は予備調査から 3 種類を選択し,それぞれの実施状況を質問した。
    結果 何れかの自己治療を実施した経験がある者は65%で,男性の実施経験者(50.8%)に比較して女性の実施経験者(71.9%)が有意に高かった(P<0.05)。実施経験者を「現在も自己治療を実施している群」と「現在は実施していない群」に分けて比較分析すると,高血圧を治療中の者,関節炎・リウマチを治療中の者は,治療中でない者に比べて有意に現在も自己治療を実施していた(それぞれ P<0.05,P<0.01)。その一方で,過去 1 年間に他者に対して看病の提供サポートを行った者の現在も自己治療を実施している率は,サポートを行わなかった者に比べて有意に高かった(P<0.05)。ロジスティック回帰分析からも健康によい生活習慣のある人は,ない人に比べて,また他者への提供サポート経験がある人は,ない人に比べて現在の自己治療実施率が有意に高いことが明らかになった。「鍼灸を現在も実施している群」と「実施していない群」の分析においても,ほぼ同様の結果が得られた。
    考察 不健康な健康状態に対してだけではなく,健康に良い生活習慣の実施や他者への提供サポートが,自己治療の現在の実施と有意に関連していたことは,自己治療が疾病の補完・代替的治療を目的とするだけではなく,地域における健康増進,疾病予防的な行為や習慣と深く関わりながら実施されている状況であることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 藤井 千惠, 古田 真司, 榊原 久孝
    2004 年 51 巻 9 号 p. 790-797
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 平成12年度に家庭・学校・地域連携による児童生徒の血液検査と日常生活習慣質問紙調査を実施し,健康実態を踏まえた個別健康教育や結果説明会等の生活習慣病予防活動を行った。その結果,これらの活動を通じて保護者(家庭)の行動変容や養護教諭(学校)と保健師(地域)の役割変化がみられた。今回の取り組みについて,児童生徒の生活習慣病予防の視点から整理した。
    方法 平成13年度に前年度の血液検査等に参加した長野県 M 町の小学校第 5 学年157人と中学校第 2 学年138人合計295人の児童生徒の保護者に対して質問紙調査を行い,保護者の行動変容を聴取した。回答者は269人(回収率91.2%)であった。また,養護教諭・保健師・大学教員による連絡会議において今回の取り組みの実施前後での養護教諭と保健師の役割変化を検討した。さらにこれらの検討結果を踏まえて,連絡会議の議事録や事業報告書を参照して,活動のプロセスを MIDORI モデルに基づいて整理した。
    結果 保護者の行動変容については,子どもに対して気をつけるようになった事がある者は61.3%で,保護者自身が気をつけるようになった事がある者は41.6%であり,それぞれの内訳では食事に関する事が 8~9 割を占めていた。養護教諭の役割は,一般的な健康教育を行うだけでなく,血液検査の結果等の健康実態に基づいた各個人のヘルスプロモーションの支援者へと変化し,さらに学校内の教職員の有機的な実践活動のためのコーディネーターとして機能するようになった。保健師も学校の依頼を受けて健康教育を行う役割から家族全体の生活習慣の改善を支援する役割へと変化した。また,今回の活動を MIDORI モデルに基づいてプロセスごとに整理することにより,子どもの血液検査等を通じて健康実態が明らかになり,児童生徒の生活習慣病予防活動の必要性および地域全体で支援する活動展開の重要性について家庭・学校・地域の共通理解が広がる過程を明らかにすることができた。
    結論 家庭・学校・地域連携による血液検査および日常生活習慣質問紙調査の結果の健康実態に基づいた児童生徒の生活習慣病予防活動を実施することにより,保護者,養護教諭,保健師の問題意識が高まり,行動変容に結びつく生活習慣病予防活動につながることが示唆された。
資料
  • 藤原 真治, 岡山 雅信, 高屋敷 明由美, 梶井 英治
    2004 年 51 巻 9 号 p. 798-805
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 市町村職員を対象に,実際に市町村医療機関に勤務している医師について,地域医療を行ううえで重要と思われる特性への満足感と継続勤務の期待の評価を行い,両者の関連を検討する。
    方法 デザイン:自記式質問紙郵送法調査(横断研究)。対象:平成12年 4 月 1 日現在の全国3,152市町村(全数)の国民健康保険担当者(以下,国保担当者)。国保担当者単独での回答が困難な場合には,国保担当者と他の市町村職員との合議にて回答するよう依頼した。回答のあった3,059市町村(94%)のうち市町村医療機関があった1,315市町村(42%)について検討を行った。期間:平成12年 7 月~9 月。調査項目:市町村医療機関に勤務している医師への継続勤務の期待と,地域医療を行ううえで重要と思われる保健,医療,福祉,人間関係,その他の項目について市町村医療機関勤務医師への満足感をそれぞれ評価した。
    成績 1,315市町村のうちすべての調査項目に回答のあった1,092市町村(83.0%)を解析対象とした。現在勤務医師への継続勤務の期待は,「期待している」が全体の解析では56%,へき地指定町村では61%に認めたが,市では44%と半数以下であった。医師への満足感は,全体の解析では人間関係に関する項目で高い傾向にあり,最も低かったのは「医療機関の健全な経営(収支)」であった。多重ロジスティック解析にて医師への継続勤務の期待と関連した項目は,全体で「福祉活動への積極的な参加」(「保健活動への積極的な参加」との相関係数0.71)でオッズ比1.8(95%信頼区間1.3-2.5),ついで「住民との良好な人間関係」(「医療機関の評判」との相関係数0.604)でオッズ比1.6(95%信頼区間1.1-2.2)であった。「医療機関の健全な経営(収支)」もオッズ比1.3(95%信頼区間1.01-1.8)と有意な関連を認めたが,とくにへき地指定町村にてはオッズ比1.7(95%信頼区間1.2-2.4)と大きく関連した。「初期救急医療への対応」はへき地指定町村においてオッズ比1.6(95%信頼区間1.1-2.3)で有意に関連した。
    結論 医師の継続勤務の希望と有意に関連したのは,全体では,保健・医療・福祉の連携に関する項目,地域住民との人間関係,医療機関の評判,医療機関の経営であったが,とくにへき地町村では医療機関の経営との関連は大きかった。救急に関する項目はへき地町村で有意な関連を認めた。こうした結果の違いは,市町村の地域特性に応じた医師へのニーズを反映したものでもあると考えられた。
  • 大熊 和行, 福田 美和, 松村 義晴, 中山 治
    2004 年 51 巻 9 号 p. 806-813
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 三重県における結核登録患者に対する医療の適正化や結核病床の適正配置等を図るため,結核病床を有する病院に入院していた結核登録患者の入院・治療状況からみた対策の課題を検討した。
    方法 調査は,県内 9 保健所が管理する結核登録票を情報源として,1999年 1 月 1 日から2001年12月31日の 3 か年に県内の結核病床を有する病院に入院していた943人の結核登録患者を対象に入院・治療状況の調査を行った。
    結果 発病すると他者に感染させる恐れの高い職業に就いている患者数は85人,登録時に年齢を問わず発病しやすい状況にあった患者数は73人で,これらを合わせた158人(16.8%)は,胸部 X 線健診の確実な実施を強化すべき職業または生活状況として把握することができた。発病危険因子を有する者は641人で,その内訳は結核の既往153人(23.9%),糖尿病114人(17.8%),脳卒中・痴呆85人(13.3%),慢性肝障害67人(10.5%),結核患者との接触65人(10.1%)等であり,2000年度に厚生労働省が実施した結核緊急実態調査とはかなり異なった傾向を示した。INH 1.0 mcg/mL および RFP 50 mcg/mL の 2 剤に耐性のある多剤耐性菌の出現割合は5.7%であり,多剤耐性菌の出現頻度が相当上昇していることが推測された。初回治療薬剤の状況をみると,4 剤併用療法のうちとくに INH・RFP・SM・PZA 併用療法が着実に普及していたが,それと比較すると入院期間の明らかな短縮化傾向は認められなかった。調査対象期間内に退院した患者のうち治療経過中の自己中断が3.1%あり,結核患者に対する DOTS(直接服薬確認療法)の推進・強化の重要性が示唆された。また,毎日の入院患者数の推移から,三重県全体での必要結核病床数は,最大120床程度確保すれば十分であることがうかがわれた。
    結論 予防対策として,発病すると他者に感染させる恐れの高い職業,登録時に年齢を問わず発病しやすい生活状況,発病危険因子を踏まえた健診の重要性を確認することができた。また,医療対策として,肝機能検査の適正実施のもとに PZA を含む短期化学療法の普及を図ることや,DOTS の推進・強化の重要性が示唆された。
  • 新村 洋未, 萱場 一則, 國澤 尚子, 若林 チヒロ, 柳川 洋
    2004 年 51 巻 9 号 p. 814-821
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 全国の市町村における喫煙対策事業の実施状況と喫煙対策事業に対する重要性の認識との関連を明らかにする。
    方法 全国3,207市町村の健康づくり担当課に対し,郵送による質問紙調査を実施した。調査項目は,禁煙・分煙対策事業の実施内容,施設に対する受動喫煙防止の普及啓発活動の実施状況,普及啓発活動の媒体,喫煙対策事業の重要性についての認識,とした。
    調査結果 2,570の市町村から回答が得られた(回答率80.1%)。95%以上の市町村で喫煙対策事業が実施されていた。実施事業の内容では,庁舎内分煙がもっとも実施率が高く,約 8 割の市町村で実施されていた。その一方,庁舎内全面禁煙や禁煙支援プログラムの実施率は 2 割以下であった。
     施設に対する受動喫煙防止のための普及啓発活動は,官公庁施設に対しては 6 割の実施率であるが,学校では 3 割,体育館,病院でも 2 割の実施率にとどまった。
     喫煙対策事業の重要性は 6 割の市町村が重要であると認識していた。また,庁舎内分煙は喫煙対策事業に対する重要性の認識の高低によらず実施率は高いものの,禁煙支援プログラムや庁舎内の全面禁煙は重要性の認識が高い市町村において実施率が高く,認識の低い市町村では実施率が低い傾向があった。
    結論 自治体の喫煙対策の実施において,その重要性の認識が影響を及ぼしている可能性がある。そのため,喫煙対策の推進には自治体をはじめとする公的組織の喫煙対策の重要性の認識を高めるような方策を講じていく必要性があると考えられる。
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