抄録
緒言 医療費の高騰は社会的に大きな課題であり,患者の受療行動に影響を及ぼす要因を把握し,それに基づいた予測を行うことは医療費の適正化にとって意義のあることである。そのため,本研究は,風邪症候群を有した人がその対処行動として,病院や診療所等の医療サービスを選ぶのか,大衆薬を選ぶのか,何もしないのかについて,その選択に影響を及ぼす要因を把握し,その選択のモデルを作成し予測を行った。
研究方法 ある健康保険組合の組合員本人から無作為抽出法により12,000人を対象として,仮想的質問法による質問調査を郵送法にて行った。分析方法は,風邪症候群の対処行動の選択を目的変数とした multinomial probit model による推定を行った。
研究結果 回答者は3,139人で回収率は26.2%であった。対処行動の選択の推定結果は,性別,年齢,家族人数,収入には有意な関連を示さず,かかりつけ医をもつかどうかと大衆薬常備数が選択確率に有意な関連を示した。かかりつけ医を持ち,大衆薬常備数が0個の場合,医療サービスを選択する確率は0.46,大衆薬を選択する確率は0.32,何もしない確率は0.22となった。常備薬数が増えるほど医療サービスの選択確率は減少し,大衆薬の選択確率が上昇した。常備薬数が 3 個以上では大衆薬の選択確率が医療サービス選択確率より高くなった。
結論 大衆薬の需要が増加すると,医療サービスの需要は減少することが予測された。常備薬数 3 個で医療サービスの選択確率が大衆薬の選択確率より低くなった。このことより医療費の適正化対策として,保険者が慢性疾患を有さない被保険者に補助金の給付等により大衆薬の購入を促すことが考えられる。