日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
結核対策における地域ベースの結核菌 RFLP 解析の意義
大畠 律子中嶋 洋
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2005 年 52 巻 8 号 p. 736-745

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抄録

目的 結核対策に分子疫学的手法のひとつである RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism 制限酵素断片長多型)解析を用い,感染源・感染経路の究明や二次感染予防などに役立つ指標を得ること。
方法 平成12~15年度までの 4 年間に岡山県内の医療機関で新登録患者から分離された結核菌を収集し,患者の年齢や居住地区等の疫学的背景が明らかな474株を対象として RFLP 解析を実施した。RFLP パターンのバンド数の分布から結核蔓延状況を解析し,クラスター解析から地域の流行株を調べた。感染様式を推測するため,RFLP パターンの年次推移や患者年齢層毎の違いおよび地域別の違いを調べた。集積された RFLP 解析結果は,菌株情報と併せてデータベース化し,結核感染事例発生時に感染源および感染経路を究明する他,モニタリングにより集団感染や散発事例の潜在的なリンクを発見するため用いた。
結果 474株の RFLP パターンから,県内の結核状況が過去の高蔓延時代を強く反映していることが判った。パターンが100%一致したクラスター37組110株中,患者間に接点が認められたのは20%であり,おもに60歳以下であった。RFLP パターンの類似性による分類では,3 つの流行株グループが認められ,約40%がこれらに属した。RFLP パターン分布では,年次推移・患者年齢層毎および地域別に大きな相違はみられなかった。これらのことから,県内の結核菌の大部分は,過去の株が高齢者の再燃等で広い年齢層に広範囲に感染して受け継がれて来たと推測された。したがって,高齢者の発病防止が岡山県の結核対策上重要と思われた。RFLP データベースの活用では,事例の感染源および汚染源の究明において疫学調査結果を支持する科学的根拠となり有用であったが,集団感染や散発事例の潜在的なリンクの発見はできなかった。
結論 RFLP 解析により,結核蔓延状況や流行株の存在等,結核対策に役立つ基礎データが得られた。また,事例の感染源・汚染源究明においては,従来の疫学調査結果を科学的に支持する事ができた。データベースからの集団感染や散発事例の潜在的なリンクの発見はできなかったが,今後,疫学調査の強化と効率的な調査の継続により発見が可能となり,結核対策に貢献できると思われた。

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© 2005 日本公衆衛生学会
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