日本公衆衛生雑誌
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原著
森永ひ素ミルク中毒被害者の青年・中年期(27歳~49歳)における死亡の解析
田中 英夫大島 明
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2007 年 54 巻 4 号 p. 236-245

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抄録

目的 1955年春から夏にかけて西日本を中心に発生した「森永ひ素ミルク中毒」被害者の,20歳代後半から約20年間の予後および死因別死亡リスクを明らかにする。
方法 (財)ひかり協会に対して救済事業を希望する生存被害者のうち,事件当時 2 歳以下であった5,064人(男3,133人,女1,931人)を調査対象とし,1982年 4 月 1 日から2004年末日まで観察した(前向きコホート研究)。死亡事実は,協会の救済活動を通じて行われる被害者との定期連絡により把握し,死因は,遺族から提出された死亡診断書の写しによった。大阪府一般住民の死因別死亡率から算出される期待死亡数(O)と実測死亡数(E)との比(O/E)を求め,調査対象の死因別死亡リスクを評価した。
成績 観察開始時平均年齢は27.4歳で,平均22.3年観察し,211人の死亡を把握した。全死因による全観察期間の死亡リスクは,一般住民に比べ男1.2倍(95%信頼区間(CI):1.03-1.43),女1.5倍(95%CI:1.18-1.95)といずれも有意に高かった。全死因の O/E 値は,経過年数の増大とともに次第に低下し,10年以上経過すると一般住民と有意差がなくなった。
 観察開始当初に非就労状態であった男性被害者352人の O/E 値は,全死因3.3,神経系および感覚器系36.7,循環器系3.7,呼吸器系5.7,損傷および中毒3.4と有意に高く,全死亡リスクは10年を経過しても有意に高かった。一方,就労状態にあった2,732人の全期間の死亡リスクは,一般住民との間に差を認めなかった。女性の就労者では循環器系の O/E 値が3.6,女性の非就労者では神経系および感覚器系の疾患の O/E 値が8.5と,各々有意に高かった。観察開始当初に喫煙していた男性では肺がんの O/E 値が2.6と有意に高かった(95%CI:1.10-4.68)。
結論 森永ひ素ミルク中毒被害者の20歳代後半から約20年間の死亡リスクを調べたところ,全体としては30歳代後半以後になると,一般住民とほぼ同じ程度にまで低下していた。観察開始当初に非就労状態にあった男性被害者の死因別のリスクから推定して,この集団には,砒素中毒の後遺症の程度の高い者が,より多く含まれていたことが示唆された。

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© 2007 日本公衆衛生学会
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