日本公衆衛生雑誌
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中高年者における尿失禁に関する調査
道川 武紘西脇 祐司菊池 有利子中野 真規子高見澤 愛小池 美恵子菊池 徳子向山 由美中澤 あけみ西垣 良夫武林 亨
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2008 年 55 巻 7 号 p. 449-455

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抄録

目的 近年,欧米では,尿失禁(尿漏れ)はこれまで考えられてきた以上に有訴率が高く,若い世代から抱えている問題であるという報告がなされ,公衆衛生上看過できない課題と考えられている。しかしながら,わが国においては,尿失禁に関する地域住民を対象とした調査は多くなく,その実態は明らかではない。本研究では,構造化質問票を用いて中高年者における尿失禁の有訴率を明らかにするとともに,その程度(頻度および量)や危険因子としての分娩回数との関連,相談先など,今後の予防施策立案に役立つ資料の提供を目的とした。
方法 長野県 K 町における住民基本健康診査受診者のうち,質問票に回答した985人(男性350人(平均年齢62.5±標準偏差11.2歳),女性635人(64.3±11.4歳))を対象とした。自記式質問票にて調査した内容は,尿失禁の頻度・量,QOL スコア,病因の自覚的評価(以上は,尿失禁の症状・QOL 質問票 Scored International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form 日本語版を使用)と,相談相手,分娩回数(女性のみ)である。
結果 尿失禁の有訴率は,男性で11.4%,女性で34.5%であり,年齢が高くなるほど有訴率も上昇した(P for trend<0.01)。女性では,40歳代でも有訴率が高く,30.4%であった。分娩は尿失禁との関連を示し,分娩経験なしに比べて,4 回以上の分娩経験者では,尿失禁のオッズが4.26倍(95%信頼区間:1.13-16.10)であった。また,女性では尿失禁の頻度が増えるほど QOL が低下していた。相談相手としては,男性では医療機関(54.2%)と家族(34.0%)が大部分を占めた。女性は,39.6%が医療機関,22.6%が家族,16.5%が誰にもしない,10.6%が医療機関以外の保健看護職,9.5%が友人だった。
考察 尿失禁の有訴率は高く,とくに女性では40歳代でもすでに多くが抱えている問題であることが示された。また,QOL を低下させること,複数分娩経験者などのハイリスク集団が存在する事,一方で誰にも相談しない有訴者がいる事,などが明らかになり,今後地域保健の現場で早急に取り組むべき問題である事が示唆された。

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© 2008 日本公衆衛生学会
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