日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
原著
豊かな出産体験がその後の女性の育児に及ぼす心理的な影響
竹原 健二野口 真貴子嶋根 卓也三砂 ちづる
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 56 巻 5 号 p. 312-321

詳細
抄録

目的 本研究では豊かな出産体験がその後の女性の育児に及ぼす心理的な影響について明らかにすることを目的に,出産体験と産後うつ,母性意識,育児困難感の関連を検討した。
方法 本研究は2002年 5 月~2003年 8 月の期間に,5 つの施設で分娩をしたすべての女性2,314人のうち,条件を満たした1,004人を分析対象としたコホート研究である。本研究では出産直後の女性に対して実施したベースライン調査,産後 4 か月,9 か月,2 年 6 か月,3 年時に実施した計 4 回のフォローアップ調査のデータを用いた。質問項目として,出産体験,母性意識,育児困難感,産後うつを測定する尺度を用いた。すべてのデータは調査員が診療録からの転記,および質問票を用いた直接面接によって収集された。
結果 出産体験尺度の得点が高い女性は,産後の母親役割に対して肯定的に捉えられるようになり,育児不安や育児ストレスが軽減することが明らかになった。出産体験と産後うつの関連については,二変量解析においてのみ,弱い関連が示された。
結論 本研究を通じて,女性がより豊かな出産体験をすることは,自身の母親役割の受容に対する否定感や,児に対する攻撃衝動性を抑制することにつながることが明らかにされたことから,育児不安や育児ストレスの軽減,児童虐待の予防に対して,妊娠・出産時からの関わりも重要であることが示唆された。今後は出産体験を高めるような決定因子が明らかにされ,具体的なケアや介入方法が提言されることが望まれる。

著者関連情報
© 2009 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top