日本公衆衛生雑誌
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愛知県麻しん全数把握事業における2007年患者報告状況と感染症発生動向調査との比較
続木 雅子広瀬 かおる増井 恒夫皆川 洋子
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2009 年 56 巻 9 号 p. 674-681

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抄録

目的 わが国の麻しん発生状況は1999年以来いわゆる感染症法に基づく感染症発生動向調査定点報告で把握されてきたが,愛知県においては麻しん症例の迅速な把握と適切な感染拡大防止対策実施に資することをめざし,2007年 2 月 1 日に愛知県麻しん全数把握事業が開始された。わが国における麻しん根絶達成の基礎資料とすることを目的に愛知県麻しん全数把握事業について感染症発生動向調査データと比較しながらその成果をまとめた。
方法 愛知県麻しん全数把握事業は定点医療機関のみならず愛知県内の全医療機関を対象とした。患者住所(市町村名まで),性別,診断年月日,診断時年齢,推定感染経路,予防接種歴,患者の通園・通学・通勤先での患者発生状況の各項目に関する報告は医療機関から直接当所へ行われ,一方情報還元は当所ウェブサイトを介することで迅速化が図られた。年齢・予防接種歴別集計と同時に,感染症発生動向調査における定点医療機関からの報告状況と比較検討した。
結果 2007年感染症発生動向調査では56人[麻しん45人(80.4%),成人麻しん11人(19.6%)]の報告に対し,愛知県麻しん全数把握事業(2007年 2 月 1 日~12月31日)には212人[麻しん89人(42.0%),成人麻しん123人(58.0%)]の報告があり,感染症発生動向調査では捕捉されなかった15歳以上の成人麻しんが感知された。患者報告総数212人のうち予防接種歴ありは56人(26.4%)で primary あるいは secondary vaccine failure が示唆された。また,予防接種歴なしは88人(41.5%),不明は68人(32.1%)にのぼっており,予防接種の徹底や接種歴の記録保存よびかけの必要性などが,今後の麻しん対策を検討する上での課題として明らかになった。
結論 感染症法の改正により2008年 1 月から麻しんは全数報告対象疾患となったが,それに先駆けて実施された愛知県麻しん全数把握事業は,監視体制の強化により麻しん発生の正確で迅速な把握が可能となることを示した。今後も麻しん排除にむけてのサーベイランス強化と感染拡大防止に資するための情報収集を継続する必要がある。

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© 2009 日本公衆衛生学会
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