日本公衆衛生雑誌
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大都市に住む一人暮らし男性高齢者のセルフケアを確立するための課題 高層住宅地域と近郊農村地域間の質的分析
河野 あゆみ田髙 悦子岡本 双美子国井 由生子山本 則子
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2009 年 56 巻 9 号 p. 662-673

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抄録

目的 本研究の目的は,大都市の高層住宅地域と近郊農村地域に住む一人暮らし男性高齢者のセルフケアを確立するための課題を明らかにすることであり,男性高齢者のセルフケアを支援するケアプログラムを検討する際の基礎資料とする。
方法 研究デザインは,質的研究である。高層住宅地域と近郊農村地域の各地域から PI(プライマリーインフォーマント)として,一人暮らし男性高齢者を各10人,KI(キーインフォーマント)として保健医療福祉専門職や地域住民各 7 人を対象とし,半構成的面接を実施した。男性高齢者のセルフケアを確立するための課題について,強み,問題点ならびに対処の観点から分析を行った。
結果 PI からの117コード,KI からの54コードをもとに,都市高層住宅地域と都市近郊農村地域を比較して18のカテゴリを作成した。その結果,セルフケアを確立するための強みとして『自律心』,問題点として『健康上の不安』と『日常生活の維持』,対処として『社会資源の利用』のテーマがみられた。『自律心』では,「自分のライフスタイルは守りたい」,「人の世話にはなりたくない」,「できるだけ前向きに一人でがんばりたい」,「人に干渉されずに一人で気楽に暮らしたい」,『健康上の不安』では「健康状態が悪くなったときや孤独死の不安がある」,「健康状態がよくない」,「安否確認の方法を気にしている」というカテゴリがみられた。『日常生活の維持』では「食べることについての問題が多い」,「食事内容が偏っている」というカテゴリの他に KI は「好ましくない生活習慣を問題視しにくい」ととらえていたが,PI は「生活に不便を感じていない」としていた。一方,『社会資源の利用』については,都市高層住宅地域では「困りごとを表出する」,「能動的に社会資源を利用する」,都市近郊農村地域では「困りごとを表出しない」,「受動的に社会資源を利用する」というカテゴリがみられた。
結論 大都市に住む一人暮らし男性高齢者は,自律心を持ち,生活に不便はないと考えながら生活しているが,好ましくない生活習慣を問題視しにくく,食生活の問題や健康状態の悪化や孤独死に対する不安を持っており,これらに対するケアの課題をもっている可能性が明らかになった。一方,高齢者の社会資源の利用姿勢については,大都市高層住宅地域と大都市近郊農村地域では違いがあり,地域特性も考慮にいれた支援方法が必要であると考えられた。

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© 2009 日本公衆衛生学会
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