日本公衆衛生雑誌
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原著
地域高齢者の睡眠と抑うつとの関連における性差
田中 美加久佐賀 眞理田ヶ谷 浩邦大倉 美鶴渡辺 知保
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2012 年 59 巻 4 号 p. 239-250

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抄録

目的 我が国において高齢者の睡眠と抑うつの関連を調べた研究は十分でなく,性差に焦点を当てて解析を行った研究はほとんどない。本研究は,高齢者における睡眠と抑うつとの関連性について,とくに性別による違いに焦点を当てて解析を行った。
方法 参加者は,熊本県の 1 つの村に居住する65歳以上の高齢者全員(563人)で,2010年 6 月から 7 月にかけて自記式質問票調査を行った。睡眠の評価には Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)を,抑うつの評価には Geriatric Depression Scale Short Form(GDS-SF)を用いた。調整要因として性,年齢,受給年金の種類,居住形態,社会的役割,現病歴,既往歴,介護状況,認知機能について調査した。先行研究に従い,PSQI および GDS-SF の合計得点が 6 点以上の場合,それぞれ,睡眠の障害および抑うつが認められると評価した。睡眠と抑うつの関連を調べるために,抑うつの有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を,全体および男女別に行った。独立変数としてモデルに投入する調整要因間には,ある程度の相関関係が存在すると予想されたため,多重共線性による影響の有無やモデルの頑健性を確認する目的で,調整要因を段階的に投入したモデルを構築した。
結果 男女含めた全体の解析では,すべてのモデルにおいて抑うつと睡眠の障害との間に有意な関連が認められ,すべての変数を調整要因として投入した際のオッズ比は1.92(95%信頼区間:1.11–3.32)であった。男性においては,未調整時には抑うつと睡眠の障害との間に有意な関連が認められたものの,調整後はその関連は有意ではなかった。一方,女性においては,いずれのモデルにおいても有意な関連を認め,すべての変数を調整要因として投入した際のオッズ比は2.28(95%信頼区間:1.11–4.69)であった。
結論 本研究の結果,高齢者においては,抑うつと睡眠の障害との間に有意な関連があることが示唆された。しかし,その関連には性差があり,女性においては睡眠の障害と抑うつの間には有意な関連が認められるものの,男性では有意な関連は認めなかった。男女間で違いが認められた理由は明確ではないが,神経伝達物質をはじめとする様々な要因が関与している可能性が考えられる。今後の高齢者の抑うつ対策を効果的なものにするためには,性差を考慮しながら研究を進めていくことが重要であると考えられた。

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