日本公衆衛生雑誌
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原著
認知障害高齢者の行動・心理症状に関する検討 在居場面の違いによる差異
橋立 博幸原田 和宏浅川 康吉山上 徹也二瓶 健司金谷 さとみ吉井 智晴
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2012 年 59 巻 8 号 p. 532-543

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抄録

目的 日常生活動作(ADL)障害を有し通所施設を利用する地域在住高齢者において,認知症高齢者および軽度認知障害(MCI)高齢者の通所施設および自宅における認知症の行動•心理症状(BPSD)の差異について検討するとともに,BPSD と介護負担感との関連について検証することを目的とした。
方法 対象は2009年12月から2010年 2 月の間に通所施設を利用した在宅高齢者917人であった。分析は,医師による認知症診断の有無,clinical dementia rating scale, mini-mental state examination (MMSE) の結果から,認知症群,MCI 群,健常群のいずれかの群に該当した594人を選定して行った。主な調査項目として,BPSD を neuropsychiatric inventory (NPI), dementia behavior disturbance scale (DBD) を用いて通所施設および自宅の状況について評価した。また,自宅での基本的 ADL (Barthel index: BI) および介護負担感(Zarit 介護負担尺度短縮版:J-ZBI_8)を評価した。認知症群,MCI 群,健常群の 3 群間で各調査項目を比較した。
結果 通所施設および自宅での DBD, MMSE, BI, J-ZBI_8 は健常群,MCI 群,認知症群の順に成績が有意に低かった。各群において NPI および DBD は通所施設に比べて自宅での成績が有意に低く,認知症群は MCI 群および健常群に比べて NPI の乖離(通所施設–自宅)の値が有意に大きかった。さらに J-ZBI_8 を目的変数とした重回帰分析の結果,認知症群では自宅の NPI および DBD, MMSE, MCI 群では自宅の DBD,健常群では自宅の NPI および BI が,それぞれ有意な関連項目として抽出され,通所施設での NPI および DBD は有意な説明変数として抽出されなかった。
結論 ADL 障害を有し通所施設を利用する地域在住高齢者では,認知症の重症度に伴って認知機能および自宅での ADL が低く,家族の介護負担感が高いことが示唆された。BPSD は通所施設に比べて自宅で顕在化しやすく,認知症高齢者ではその乖離が大きいという特性が認められた。家族の介護負担感は自宅における BPSD が関与するため,自宅での BPSD の評価が重要である。

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© 2012 日本公衆衛生学会
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