日本公衆衛生雑誌
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原著
MSM(Men who have sex with men)におけるHIV 抗体検査受検行動と受検意図の促進要因に関する研究
塩野 徳史金子 典代市川 誠一山本 政弘健山 正男内海 眞木村 哲生島 嗣鬼塚 哲郎
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2013 年 60 巻 10 号 p. 639-650

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抄録

目的 日本の MSM(Men who have sex with men)における生涯の HIV 抗体検査受検経験と受検意図に関連する要因を明らかにする。
方法 東京都,神奈川県,愛知県,大阪府,福岡県,沖縄県で主にゲイ•バイセクシュアル男性が利用する商業施設に調査協力を依頼し,総計8,335部の質問紙を施設利用者に配布し4,572人の回答を得た(有効回収率54.9%)。分析は生涯の HIV 抗体検査受検経験の有無,受検意図の 2 変数を用いて,受検経験を有する群,受検経験はないが受検意図は有する群(以下,意図のみあり群),受検経験,受検意図のない群(以下,意図なし群)に分類し,受検経験に関連する各要因と群間の差異についてカイ二乗検定を用いて比較した。意図のみあり群と受検経験を有する群について各項目との関連を単変量解析で検討し,有意差のみられた項目について受検経験を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。意図なし群と意図のみあり群でも同様の手順で解析した。
結果 過去 6 か月間に男性とのアナルセックス経験を有する MSM は2,809人で,HIV 陽性であると回答した131人(4.7%,95%CI:3.9%–5.4%)を除いた2,678人を分析対象とした。受検経験を有する群61.0%,意図のみあり群20.2%,意図なし群18.8%であった。
  多重ロジスティック回帰分析の結果,意図のみあり群を対照として受検行動に関連していたのは,高い知識正答(OR, 1.91),生涯の性感染症既往歴(OR, 1.52),性的指向についてゲイである自認を有すること(OR, 1.44),大学•大学院の最終学歴(OR, 1.44),周囲の HIV 感染者の存在認識(OR, 1.40),過去 6 か月間のアナルセックス時のコンドーム常用(OR, 1.37)であった。
  未受検者における検査受検意図を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,関連していたのは,過去 6 か月間の友達や知り合いとのエイズや HIV についての対話経験(OR, 1.87),生涯の性感染症既往歴(OR, 1.67),周囲の HIV 感染者の存在認識(OR, 1.66),過去 6 か月間の彼氏や恋人とのエイズや HIV についての対話経験(OR, 1.60),中高年層(OR, 0.51)であった。
結論 ゲイ向け商業施設を利用する MSM において,受検経験を有する人と受検意図を有するものの受検行動に至っていない人の間では,HIV 感染や検査に関する知識や生涯の性感染症既往といった本人の体験に加え,周囲の HIV 感染者の存在認識が関連し,HIV 抗体検査未受検者における受検意図には周囲の人との対話経験や HIV 感染者の存在を認識するといった周囲規範が関連していることが明らかとなった。検査行動を促進するには HIV に関する知識に加え,HIV 感染の現実感や周囲規範が重要となることを示唆している。

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© 2013 日本公衆衛生学会
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