日本公衆衛生雑誌
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60 巻 , 10 号
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論壇
  • 玉腰 暁子, 武藤 香織
    2013 年 60 巻 10 号 p. 631-638
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    目的 研究が大型化する中,疫学研究でも多施設共同で行われていることが増えている。しかし,多施設が関わるために増加する様々な業務にあたる中央事務局は,個々の経験に基づき運営され,業務内容は明らかとなっていない。
    方法 国内で行われている 6 つの多施設共同疫学研究の中央事務局ならびにサイト(各研究の分担/研究協力機関)担当者を対象に,中央事務局の業務に関する面接調査を行い,その内容を整理した。
    結果 中央事務局とサイトとの関係は,研究に関する意思決定方法,資料•試料の流れ,役割分担などにより,「中央事務局統治型」,「共同統治型」に大別された。いずれの関係であっても,把握された多数の具体的な業務内容は,I.研究の計画と遂行に関わること(1. 計画立案,2. 研究実施準備,3. 対象者リクルート,資料•試料収集,4. 資料•試料管理,5. 対象者追跡,6. 試料分析•結果解析,7. 結果公表),II.研究組織に関わること(1. 事務局内の体制維持•運営,2. 研究全体の体制維持•運営,3. 研究費の配分•執行,4. サイトの体制維持•運営,5. サイトとのコミュニケーション),III.研究の社会的側面への対応に関わること(1. 倫理•法•社会面の対応,2. リスク管理•危機管理,3. 広報)の 3 領域15分野に類型化できた。
    結論 我々は,明らかとなった中央事務局業務をさらにどの研究であっても必須と考えられる項目(A. ミニマムリクワイアメント),中央事務局とサイトとの関係や研究費のあり方など状況に応じて必要な項目(B. ケースバイケース),そして研究が円滑に進むためによりよいレベルと考えられる項目(C. ベスト•プラクティス)の 3 群に整理した。今後,業務項目リストは,(1)現在実施されている研究の中央事務局業務の自己点検•評価の資料,(2)新しく開始される多施設共同疫学研究の中央事務局業務構築の資料,(3)中央事務局の業務内容を多施設共同疫学研究の事業評価に導入する場合の評価項目案や標準化に向けたシステム作りへの資料,としての活用が期待できる。
原著
  • 塩野 徳史, 金子 典代, 市川 誠一, 山本 政弘, 健山 正男, 内海 眞, 木村 哲, 生島 嗣, 鬼塚 哲郎
    2013 年 60 巻 10 号 p. 639-650
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    目的 日本の MSM(Men who have sex with men)における生涯の HIV 抗体検査受検経験と受検意図に関連する要因を明らかにする。
    方法 東京都,神奈川県,愛知県,大阪府,福岡県,沖縄県で主にゲイ•バイセクシュアル男性が利用する商業施設に調査協力を依頼し,総計8,335部の質問紙を施設利用者に配布し4,572人の回答を得た(有効回収率54.9%)。分析は生涯の HIV 抗体検査受検経験の有無,受検意図の 2 変数を用いて,受検経験を有する群,受検経験はないが受検意図は有する群(以下,意図のみあり群),受検経験,受検意図のない群(以下,意図なし群)に分類し,受検経験に関連する各要因と群間の差異についてカイ二乗検定を用いて比較した。意図のみあり群と受検経験を有する群について各項目との関連を単変量解析で検討し,有意差のみられた項目について受検経験を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。意図なし群と意図のみあり群でも同様の手順で解析した。
    結果 過去 6 か月間に男性とのアナルセックス経験を有する MSM は2,809人で,HIV 陽性であると回答した131人(4.7%,95%CI:3.9%–5.4%)を除いた2,678人を分析対象とした。受検経験を有する群61.0%,意図のみあり群20.2%,意図なし群18.8%であった。
      多重ロジスティック回帰分析の結果,意図のみあり群を対照として受検行動に関連していたのは,高い知識正答(OR, 1.91),生涯の性感染症既往歴(OR, 1.52),性的指向についてゲイである自認を有すること(OR, 1.44),大学•大学院の最終学歴(OR, 1.44),周囲の HIV 感染者の存在認識(OR, 1.40),過去 6 か月間のアナルセックス時のコンドーム常用(OR, 1.37)であった。
      未受検者における検査受検意図を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,関連していたのは,過去 6 か月間の友達や知り合いとのエイズや HIV についての対話経験(OR, 1.87),生涯の性感染症既往歴(OR, 1.67),周囲の HIV 感染者の存在認識(OR, 1.66),過去 6 か月間の彼氏や恋人とのエイズや HIV についての対話経験(OR, 1.60),中高年層(OR, 0.51)であった。
    結論 ゲイ向け商業施設を利用する MSM において,受検経験を有する人と受検意図を有するものの受検行動に至っていない人の間では,HIV 感染や検査に関する知識や生涯の性感染症既往といった本人の体験に加え,周囲の HIV 感染者の存在認識が関連し,HIV 抗体検査未受検者における受検意図には周囲の人との対話経験や HIV 感染者の存在を認識するといった周囲規範が関連していることが明らかとなった。検査行動を促進するには HIV に関する知識に加え,HIV 感染の現実感や周囲規範が重要となることを示唆している。
研究ノート
  • 野中 久美子, 西 真理子, 小林 江里香, 深谷 太郎, 村山 陽, 新開 省二, 藤原 佳典
    2013 年 60 巻 10 号 p. 651-658
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    目的 都市部の地域包括支援センター(以下,地域包括)が,在宅高齢者の身体•認知機能障害の重篤化防止と生活安定化支援のために,住民から情報提供を望む高齢者の特徴を記した実用性の高いツール「都市部版 地域包括支援センターへの情報提供のチェックシート」(以下,「情報提供のチェックシート」)を作成することを目的とした。
    方法 予備調査として,首都圏 4 自治体(埼玉県和光市,神奈川県川崎市多摩区,東京都多摩市,東京都大田区)の地域包括職員29人を対象に,支援が必要と思われる高齢者の把握と支援導入における成功•失敗事例についてインタビュー調査を実施した。同調査で得られた支援が必要な高齢者の特徴と,他地域で活用されている既存のツールを参考にし,項目候補を選定した。
      本調査として,項目選定を目的とした自記式質問票調査を大田区の全20地域包括の職員109人を対象に実施した。まず,度数分布により各項目の通報必要性の支持率を確認した。次に,主因子法,プロマックス回転を用いた因子分析により項目の構成概念を検討した。通報必要性の支持率と因子分析での寄与率が高い項目を各因子から 2~4 項目選定した。最後に,選定した項目を大田区の地域包括職員20人に提示し,その項目が示す特徴に関する通報を希望するかについて尋ねた。
    結果 有効回答であった90票を因子分析により分析した結果,『居宅の外観から気付く悪化』,『会話で気付く認知症』,『様子や発言から気付く体調不良』,『服装から気付く認知症』,『身嗜みから気付く認知症•体調不良』の5因子19項目が得られた。各因子の中で寄与率が高く,かつ通報の必要性が高いと支持された項目から順に選定し,14項目からなる「情報提供のチェックシート」を作成した。最後に,大田区の地域包括職員20人に対して,採択した14項目を提示し,項目が地域包括の通報希望と一致していることの確認ができた。
    結論 都市部の地域包括にとって,支援が必要な高齢者の早期把握に有用な高齢者の特徴14項目を提示することができた。
資料
  • 金 美賢, 神垣 太郎, 三村 敬司, 押谷 仁
    2013 年 60 巻 10 号 p. 659-664
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/08
    ジャーナル フリー
    目的 2011年 3 月11日に発生した東日本大震災によって宮城県では多くの医療機関が被害を受け,また多くの住民が避難所での生活を余儀なくされた。被災地での感染症の流行が懸念されたために避難所における感染症サーベイランス(以下,避難所サーベイランスという)が実施された。本研究ではその避難所サーベイランスによる震災後の感染症の動向についてまとめた。
    方法 2011年 3 月18日から11月 6 日まで宮城県では避難所を対象とした避難所サーベイランスが実施された。運用期間中に報告頻度および報告疾患に変更が加えられ,3 月18日から 5 月13日までの実施されたサーベイランス 1 と 5 月10日から11月 6 日までのサーベイランス 2 の大きく 2 つに分けることができる。それぞれについて集計を行い,報告症例および避難所数に占める参加避難所数の割合について記述を行った。
    結果 3 月18日からのサーベイランス 1 では8,737例の患者が報告され,84%呼吸器症状であり,16%が消化器症状であった。避難所の平均カバー率は運用開始から 1 週間では4.4%であった。5 月10日からのサーベイランス 2 では1,339例が報告され,やはり呼吸器症状(82%)および消化器症状(13%)が多くみられた。またすべての疾患において 5 歳以下の割合が最も少なかった。いずれの観察期間を通しても明らかなアウトブレイクは認められなかった。
    結論 東日本大震災後の避難所サーベイランスにより発災後 1 週間から避難所がすべて閉鎖されるまでの期間について感染症の動向を監視することができた。しかし初期に低い参加率であったこと,報告される疾患は呼吸器および消化器がほとんどであり,それ以外の症候群の報告数が著しく低かったことから早期の監視システムおよび対象疾患の選定に課題を残した。避難所サーベイランスでは定期的に巡回していた医療救護との連携や避難者数の特性を把握する事が有用であると考えられ,震災初期から効率的に情報収集できるシステムを構築する必要があると考えられた。
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