日本公衆衛生雑誌
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日本脳炎ワクチン早期接種推奨後の中和抗体価について
追立 のり子北澤 克彦小川 知子佐藤 眞一
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2023 年 70 巻 4 号 p. 243-251

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抄録

目的 2015年に千葉県で発生した生後10か月の日本脳炎患者事例を受け,千葉県小児科医会と千葉県医師会は,生後6か月での日本脳炎ワクチンの接種を推奨した。本研究では,患者発生地域における早期接種と標準的接種の児について調査し,早期接種推奨前後での接種開始時期の変化および感染防御免疫の獲得とその維持について検討した。

方法 2015年の患児を診療した第二種感染症指定医療機関の協力を得て,2018年10月から2020年3月までの間に同病院を受診した児のワクチン接種歴と接種時期を調査し,検体として血清を採取した。ワクチン接種時期の調査は,本研究で得られたデータと厚生労働省地域保健・健康増進事業報告を参照し比較した。血清中の中和抗体価はフォーカス計測法により測定し,ワクチン接種回数,接種量,接種後経過日数について検討した。

結果 ワクチン接種群89例,未接種群65例,合計154例の検体を得た。初回接種年齢の割合は,2015年度までは全国,千葉県,研究対象者で差はなかったが,2016年度以降,研究対象者,千葉県,全国の順に早期接種児の割合が高かった。ワクチン接種回数別の抗体保有率は,未接種9.2%,1回接種87.5%,2回接種95.1%,3回接種100%だった。2回接種群において,ワクチン量が半量だった児の抗体価が通常量接種児の抗体価よりも有意に低かった。

結論 本研究の対象地区では,早期接種推奨前と比較して3歳未満の接種児が有意に多かったことが明らかとなり,早期接種推奨の効果が示唆された。そして,早期接種でも標準接種と同等の抗体価を得られることを確認できた。また,ワクチン未接種児の抗体陽性率が高かったことから,日本脳炎罹患リスクの高い地域では,早期接種のさらなる推進が重要と考えられた。本研究では,早期接種後の長期経過による抗体価の減衰は認めなかったが,対象地域が流行地域であることから,早期接種修了児に病原体暴露によるブースターが起こり,抗体価を維持できた可能性が残る。

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