日本公衆衛生雑誌
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限界集落の離島に在住する高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることへの思い
吉田 美由紀達川 まどか大谷 進介藤村 一美
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キーワード: 高齢者, 思い, 離島, 生活, 質的研究
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2025 年 72 巻 2 号 p. 161-170

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抄録

目的 限界集落の離島に在住する高齢者が,住み慣れた地域で暮らし続けることへの思いを明らかにし,最期まで質の高い生活をし続けることを支援する保健施策についての示唆を得る。

方法 A県の離島であるB島は,周囲を海に囲まれた完全離島で,人口138人,高齢化率48.6%(R2)である。少子高齢化による人口減少が著しいB島に住む65歳以上の高齢者7人に対し,インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した。インタビュー内容は,①住み慣れた地域でのこれまでの生活を踏まえた今の自宅での暮らしへの思いや考え,②暮らしを支える介護・医療・予防,生活を支援する社会資源や人的資源に対する思いや考え,③これからもこの島で生活していくことへの思いや考えとした。逐語録を作成し,住み慣れた地域で暮らし続けることへの思いについての内容を対象者の言葉を用いてコード化し,抽象度を上げてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した。

結果 対象者の平均年齢は76.9歳,「障害高齢者の日常生活自立度」はJ1~2であった。以下,【】内はカテゴリ名を示す。B島の高齢者は,今の島での暮らしについて,【島での暮らしは気ままで楽しい】が【島民間の強いつながりはしがらみにもなる】と思っていた。そして,島の暮らしを支える社会資源について,【支え合いが島の生活の土台】にあり,日常生活を支援してくれるサービスの利用により【現状の島の生活に不自由はない】と思っていた。一方,海で隔絶された環境において【島外とのつながりが生活の生命線】であると考えていた。これからの島での生活については,【衰退する島の現状になす術がない】,【島の生活資源の希少化で生活そのものの存続が危機】,【将来の島での生活は八方塞がり】と思っており,【島では望む最期を迎えられない覚悟が必要】と考えていた。そして,これからこの島で生活していくためには,【自立した生活を維持するためには自助努力が必須】,【人生の終末に対する自分の意志を持つことが必要】と考えていた。

結論 明らかとなった離島在住高齢者の住み慣れた地域で住み続けることへの思いから,島外とのつながりを維持するための体力づくりへの支援,島の高齢住民が互助力を醸成する機会の創出,ICTを活用した医療体制の強化,最期の迎え方を離れた家族とともに繰り返し話し合うことを推進する必要性について示唆を得た。

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